固定か、金利か? 住宅ローンの「金利」は、どれを選ぶのがよいのでしょうか。筆者は消費者金融で不動産担保ローンの審査・貸付業務を10年経験した後、住宅メーカーに転身した経歴を持っており、いわば「金融および住宅の裏を知り尽くした人物」。それゆえに住宅ローンの返済に苦しむ人々を大勢見てきました。筆者が考える、住宅ローンの金利選択において「大事なこと」とは? ※本連載は屋敷康蔵氏の著書『人生を賭けて「家」を買った人の末路』(PHP研究所)より一部を抜粋・再編集したものです。

みんな悩む「金利」選択…3つの住宅ローンをおさらい

住宅ローンを組む時に、多くの人が悩む「金利」の選択。固定金利にするのか変動金利にしたほうがいいのか。もちろんその金利の選択で、完済までの住宅ローン総支払額がかなり変わってくることは間違いないでしょう。

 

本稿は実用書ではないので、金利について深く掘り下げることはしませんが、住宅ローンにおける基本的な金利の種類と特性については簡単に説明しておきます。まず住宅ローンの金利は大きく分けて3種類があります。

 

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【①変動金利】

一般的に金利の中では最も低い金利で設定されていますが、その金利は半年ごとに見直されます。金利が下がれば毎月の返済額も下がりますし、金利が上がれば毎月の返済額も上がる仕組みです。現在、史上最低水準の金利が続いているため、2018年に住宅ローンを組んだ人々の実に7割が、変動金利を選択しています(住宅金融支援機構、2019年度「民間住宅ローンの貸出動向調査」)。

 

【②全期間固定金利】

借入れのスタートから完済までの全期間において金利が固定されています。住宅金融支援機構の「フラット35」がこの代表例ですが、みずほ銀行やりそな銀行などで取り扱いがあります。金利に一切変動がないので安心ではありますが、金利の設定が変動金利に比べて割高なため、仮に市場で低金利が完済まで続いたり、金利がさらに低くなった場合は損をすることになります。住宅ローンの総返済額が、変動金利の人に比べて当然、多くなるからです。

 

【③期間固定金利】

一般的に3年・5年・10年の期間を選択し、その期間は金利が変動しないという仕組みです。金利の高さは3年<5年<10年と、長期の固定になればなるほど高く設定されています。

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③の期間固定金利の場合ですが、ひと昔前までは、固定期間を過ぎると自動的に変動金利に戻ることで「いきなり金利が上がって、毎月の返済額も上がってしまった」という現象が起きていました。今でもその時のイメージを持たれる方も多いと思います。

 

しかし現在は、固定期間終了後に、あらためて変動金利の「3年・5年・10年」の中から固定期間を選択できる金融機関もあります。選択を繰り返すことで完済までつなげることが可能なので、昔のように波の荒い支払いになることはあまりありません。もちろんこの仕組みを採用していない金融機関もありますから、ここはきちんと確認することが必要です。

見るべきは「固定か、変動か」より「優遇金利の期間」

もう一つ見逃しがちな大きなポイントが、「優遇金利(金利の引下げ)」の確認です。今はほとんどの住宅ローンに「優遇金利」という、金融機関の店頭表示金利から金利の引下げが適用されているはずです。どういうことか説明しましょう。

 

たとえば、「店頭表示金利3%から1.5%引下げ」となっていれば、単純に引き算して「1.5%」の金利が適用されるというものです。この優遇金利は「当初3年間だけ」「5年間だけ」「10年間」と期間を区切っているところもあれば、「全期間優遇適用」のところもあります。

 

仮に、優遇金利適用が「10年間限定」であれば、11年目からは1.5%の金利が上乗せされて毎月の返済額が増えることになります。

 

ここで注意が必要なのが毎月の負担増です。単純に優遇がなくなって本来の金利に戻っただけなのですが、それまで10年間も1.5%引かれていたのが、いきなり3%になるわけですから、毎月の返済額の負担増の感覚は想像以上です。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

住宅ローンの金利を選ぶ時、ほとんどの人は「固定がいいのか、変動がいいのか」「どこの金融機関が今、一番金利が低いのか」といった金融機関の店頭表示金利と金利の期間選択にばかり目が行きがちですが、店頭表示金利などの違いは、所詮は誤差の範囲です。

 

現実的には、3年や5年かけて毎月の支払いペースを摑めたと思ったら、その後の「優遇切れ」による支払い増加で、ヒーヒー言っているという人のほうがはるかに多いのです。私自身、そういう人達を大勢見てきていますから。

 

普通に考えれば、「期間固定金利」もその期間終了後に再度「期間固定金利」を選べたほうがいいですし、「優遇金利」も「全期間優遇」のほうがいいに決まっています。

 

しかし、現実にはこの優遇期間等は金融機関全体で足並みが揃っていません。重要なことであるにもかかわらず、借入れの時にもあまり着目されていないという不思議な制度なのです。個人的には、ある意味で金融機関によるトラップとしか思えない「優遇期間」のばらつきなのですが…。

 

なぜか金利を選択する時、店頭金利のコンマ数%は気にするのに、この優遇期間を気にする人は少ないのです。優遇期間が切れて本来の金利に戻った時の負担増は、計り知れないものがあるにもかかわらず…。

 

多くの人は、「固定がいいのか? 変動がいいのか?」という大枠しか気にしません。金利選択の参考にと住宅ローン金利についての専門書やネット記事をたくさん検索し、それでも正解が見つけられずにモヤモヤしている人も多いのではないでしょうか?

金利選択に「正解」はない…銀行員も結局「勘」で判断

すでにお気づきだとは思いますが、どこを探してもそんな正解や結論は載っていません。もちろん金利の種類や、それぞれのメリット・デメリットなどは紹介されています。しかし、あなたの生活スタイルや生活レベルを把握していない限り、どんな専門家達もあなたにとって最適で具体的な金利の提案など導き出すことはできません。

 

しかも詳細なデータを渡して検討してもらっても、最終的に導き出されるのは「あなたのライフスタイルが35年間変わらない」前提での「最適なプラン」「ベストな金利選択」といった結論なのです。

 

金融機関の銀行員も同じです。彼らもあなたに対して「この金利を選んだほうがいい」とは絶対に言いません。もちろん金利選択の特徴については詳しく説明してくれますが、せいぜい「〜を選ぶ人が多い」くらいの表現に留まることでしょう。

 

金利は自己責任としてお客様に選ばせるスタンスが鉄則。つまり、住宅ローンの金利選択などは、誰にも正解が分からない商品なんですね。そういう意味では、金融機関の人間ですら「責任を取ることができない」「責任のない」、ある意味珍しい商品なのかもしれません。

 

固定金利か、変動金利か、はたまた期間固定がいいのか…。金利選択はとても重要なことではありますが、その選択の違いで生じるのは、所詮は住宅ローンの返済総額であり、どれだけ得をするか損をするかというだけのことです。金利選択が原因(変動か固定か)で、住宅ローン破綻という話までには至りません。むしろ、それよりももっと重要なことを心配したほうがいいでしょう。

 

乱暴な言い方にはなってしまいますが、極論としてどんなにあなたにピッタリな金利を選んだとしても、リストラや病気などで生活自体が破綻してしまえば、住宅ローンの支払いは不能になってしまうことを忘れてはなりません。

 

 

屋敷 康蔵

一般社団法人建物災害調査協会 理事

 

 

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