「住宅ローンで買う人」ほど購入費用は高額
住宅購入をする際のお金の感覚。これは販売する側にもいえることですが、購入するお客様も通常の感覚が失われてしまう状況が多く見受けられます。普段の買い物だったら、卵が数十円安いと聞いただけで目の色を変えて激安店に行くのに、住宅の購入になると、とたんにその感覚がマヒするのは不思議なものです。もちろんこれには理由があり、住宅の見積もり金額というのが日常の買い物とはかけ離れた単位であるからでしょう。
たとえば、1本100円の飲み物が150円になったら、買うかどうか考え込んでしまう人も、住宅購入の際に、プラス10万円でキッチンが大きくグレードアップするなんて聞くと、「10万円でグレードアップできるなら安いものだ」という発想になりがちですね。
ただ、この住宅購入の際の金銭感覚は「現金で買うお客様」と「ローンを利用するお客様」でも大きな違いがあります。まず、現金客はお金を持っているのだから資金的に余裕があるのではと勘違いしがちですが、実際には持ち合わせの現金が決まっている(上限が決まっている)お客様なので、その中で細かくやり繰りを考えます。
さらに、その持ち合わせているお金の中で、住宅資金だけでなく、家具や電化製品など生活に必要なものもすべて賄(まかな)おうという考え方をしているはずです。そうなると、手持ち資金の上限いっぱいを住宅購入資金に充(あ)てるという発想はなく、むしろ住宅にかかる費用を極力安く抑えようと考えるのが自然です。
片や住宅ローンを利用するお客様の多くは、どういうわけかあまり上限を気にする人が少ないのです。もちろんまったく気にしていないわけではありませんが、どちらかというと住宅に対する要望ありきで「必要とされる金額を借りればいい」的な人が多いのです。
つまり、現金のお客様は単純に手持ちの自己資金から「引き算」していく考え方なので、リアルに支払う金額を感じ取ります。それに対し、ローンのお客様はこれから借りる「実態のないお金」がベースになるので、どうしても上限(予算)が後付けになります。
たとえば、ローンのお客様は通常「ローン総額から追う」というより、「毎月の返済額」を基準に考えます。つまり、現金客が自己資金から住宅費を「引き算」していく発想に対して、ローン客は毎月の支払いを積み上げていく「足し算」の発想となり、真逆の考え方になるのです。
住宅の打ち合わせでは、標準装備以外の要望を増やしていくと数十万単位で金額が増えていきます。そしてあっという間に予定金額よりプラス100万円なんていうことになりがちです。
「うわぁ、100万円オーバーか。ローンの支払いヤバイかなぁ」
そんなふうにお客様が言われる時、営業マンはこう言います。
「大丈夫です。今は幸い金利が低いので、借入れを100万円増やしたところで、毎月の返済額は3000円増えるくらいですよ」
「一生に一度の買い物だし、3000円くらいでケチケチしていられない」と、簡単に借入額を増やしてしまうお客様がなんと多いことか。
しかし、100万円借入れを増やすということは、当然ながら100万円の借金を新たに抱えることだということを忘れてはなりません。
「一生に一度の買い物だから…」という危険な心理
住宅ローンを利用するお客様は、借入総額ではなく毎月の返済額を軸に予算取りを考えてしまうことから、みるみるうちに借入総額が増えていきますが、そこには「妥協は許されない」という心理的背景が色濃く浮かび上がっています。
契約後、本格的に住宅の打ち合わせに突入したお客様は、夢の実現へ向け「完璧さ」を求めます。「まぁ、この辺でいいでしょう」とはならないのです。
そうなったら、販売する側の住宅メーカーはシメシメといったところです。できる限り多くの追加の注文が欲しい営業マンは、こんなことを言います。
「一生に一度の買い物です。まずは追加の要望を全部反映させてみて、最後に不必要なものだけ消去法で削っていけばいいと思いますよ」
まるで「節約」が「妥協」にでもなるかのような言い方をするのです。
しかし、最終的に追加見積もりを確認しても、お客様には削れるところなどほとんどないのです。それはそうですよね、すべて自分で選んだ欲しいものばかりが追加されているわけですから…。
営業マンが見せる「毎月の返済額」は、あくまで最低額
住宅メーカーの見積書は、「本体価格」「付属・付帯価格」「諸経費」そして「資金計画」としての住宅ローンシミュレーション(返済計画表)の構成になっているのが一般的です。「価格」の部分に関しては絶対的な数字なので、変えようのない部分ですが、資金としてのローンの返済計画は、あくまで「予想」の範囲です。
返済計画表の項目には、見積もり金額に対しての「総借入額」「金利」「毎月の返済額」「総返済額」などが記載されています。その中で、最もお客様が気にする項目が「毎月の返済額」です。
ここがお客様の予想以上に高い金額になると、お客様は「こんなのムリ! ムリ!」となってしまうわけです。ですから営業マンがお客様のことを思い、よかれと思って最悪の事態を想定した「高い金利」で返済計画を立ててしまえば、おのずと毎月の返済額が高く算出されてしまうため、話はそこで終わってしまいます。
もちろん、そんな馬鹿な返済計画を提示する営業マンなどいるわけがなく、住宅ローン市場で最も低い金利といわれる「変動金利」を中心に提示します。お客様も変動金利が一番安いので、将来の金利変動のリスクを差し置いても、そちらに目が行ってしまいます。
ですからそんな見積もりを見て、お客様も「これなら安心!」ではなく、そこに提示されている返済額が「底値」であって、その金額より返済額が下がることはないくらいに考えておくほうが賢明でしょう。
屋敷 康蔵
一般社団法人建物災害調査協会 理事
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