定年前後はお金に関する様々な誘惑があり、危険な罠にはまって老後破綻に陥る人も多いです。しかし、50歳を過ぎたらするべきこと、してはいけないことを知っておけば、老後のお金の不安は解消できます。今回は、定年退職した投資未経験者が、退職金3000万円のほとんどを株式投資とFXにつぎ込み、大損をしてしまった話です。※本連載は、山中伸枝氏の著書『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

そして、残りの2500万円で日本株を買いました。Bさんによれば、2500万円の日本株と、レバレッジをかけて2400万円相当の米ドルを同時に保有することで、リスクヘッジになると考えていました。

 

日本株が下落すれば、円も売られて円安になるから、為替差益によって日本株の下落をヘッジできるという算段です。確かに、金融機関の広告担当だっただけに、よく考えられています。

 

さて、そろそろ何の株式を買ったのかを申し上げましょう。東京電力です。確かに電力株は資産株で、配当利回りも高く、株価も非常に安定しています。

 

Bさんが定年になったのは、2011年2月のことでした。Bさんは証券会社に口座を開き、東京電力の株式を買いました。株価は2100円でした。株数は実に1万2000株。20万円ほどオーバーしましたが、総額2520万円の取引です。

 

1ヵ月も経たないうちに株価が2163円まで上がり、75万円ほどの値上がり益が得られました。Bさんはきっと、自分の老後はこれで安泰だと思ったことでしょう。

 

ところが……、運命の日が来ました。東日本大震災と、それによる福島第一原子力発電所の事故によって、東京電力の株価が急落したのです。2011年3月の安値は461円でしたから、2520万円で買った株式が553万2000円になってしまいました。しかも、株価はその後も下がり続け、2011年6月には148円の最安値をつけました。評価額は177万6000円です。

 

初めて株式に投資したBさんは、これ以上の損失に耐えられませんでした。一時は600円台まで回復した株価が、2011年10月に再び200円まで下げたところで全部売却したのです。売却したときの株価は220円。2500万円の資金が264万円に目減りしてしまいました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
こんなはずじゃなかったのに…(※写真はイメージです/PIXTA)

 

さらに、不幸が襲ってきました。1米ドル=83円台で買った米ドルです。これだけの自然災害が生じれば円安になるはずが、急激な円高に見舞われました。

 

結局1米ドル=76円24銭まで円高が進み、Bさんが持っていた米ドルには多額の含み損が生じました。結果、証拠金の担保不足ということで、強制的に米ドルが売られ、300万円の証拠金から損失分を差し引いた100万円のキャッシュが、Bさんの口座に残されました。

 

3000万円あった退職金が一瞬のうちに564万円になってしまいました。普通の人なら目の前が真っ暗になるでしょう。

 

でも、幸いなことに楽観的なBさんは、一念発起して株式投資の勉強を始め、564万円をタネ銭に株式投資を再開。その後のアベノミクス相場にうまく乗り、なんとか3000万円を取り返せそうなところまでリカバリーしてきたそうです。やれやれ(笑)。

 

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50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話

50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話

山中 伸枝

東洋経済新報社

定年前後の5年間、お金との付き合いには罠がいっぱいあります。老後の生活が始まる前に破綻してしまう人もいるくらい、とっても危険な罠です。この本では、その危険な罠にはまらないよう、筆者自身が実際に本人たちから聞いた…

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