増え続ける「現役世代の負担」…日本の社会保障システムの行方

かつて「高福祉・低負担」と言われていた日本の社会保障システム。しかし少子高齢化により負担が増え続け、今や1人の高齢者を現役世代2人以上で支えている状態です。保険料の負担者が減り、支出が増えていく一方では、社会保障費は破綻しかねません。日本の社会保障システムを守るために、国はどのような政策を進めているのでしょうか? ※本連載は、木村憲洋氏の著書『マンガでやさしくわかる 病院と医療のしくみ』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

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<あらすじ>

主人公の橘なおみは、夫が実家の《たちばな病院》の病院長を引き受けることになったため、日本で暮らすことになった。なおみはアメリカの病院でマネージャーをしていたが、日本とアメリカとでは勝手が違う。病院長夫人となったなおみは、橘家の執事・後田から「日本の医療」について学ぶ(【⇒マンガを全部見る】)。

 

 

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2025年には「人口の30%超が65歳以上」という予想

厚生行政は、昔から「医療関連法律などの改正」と「診療報酬・介護報酬の改定」という、2本の手綱で医療業界をコントロールしてきました。さまざまな手段によって医療提供体制を規定し、国民の医療機関への受診をも左右しようとしてきたのです。医療機関や患者の立場からすると気楽に受診することができにくい世の中となってきています。

 

現在の医療政策は団塊世代が後期高齢者へ突入する2025年に向けて医療・介護政策を展開しています。この医療政策は、高齢者割合が高くなることによる医療・介護のサービス提供体制の充実、保険料などの負担者が減り医療・介護サービス増加による保険財源の破綻を防ぐことが中心となっています。

 

高齢者割合の増加については、医療・介護サービスを提供する側より需要が大きく超えてしまうことが心配されています。2025年には、65歳以上人口が30%を超えることが予想されているため医療・介護を受ける方の増加が心配されています。

 

医療・介護の提供側と受ける側の需給バランスについては、医療政策上は病院や施設の機能分化させることにより医療・介護サービスの質を落とさず効率性を高める方向へと向かっています。その1つが急性期医療の入院日数の短縮化なのです。さらには、リハビリテーションの提供密度を上げていくことにより、早く社会復帰をさせていくことが方向性として盛り込まれています。

 

高齢化による課題は、認知症の増加も予想され国を挙げて対策を行っていかなければなりません。認知症への対応は、病院における入院患者への対応を評価する認知症ケア加算などにより認知症患者の受け入れを評価し、入院中に事故が起きないような対策が個々の病院で行えるように進められています。

 

介護サービスについても認知症加算により介護事業者が認知症の方へのサービス提供を拒否しないようにインセンティブを与えています。

 

また、高齢化は高齢者世帯の増加とそれに伴う独居老人の増加にも心配があります。独居老人の増加は、病気などにより高齢者が孤独死するなどのリスクや、社会的に取り残されたりするリスクを少なくする必要があります。現在は、この点に関しての有効な施策は発動されていません。

 

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社会保険の加入基準や定年…「現役世代の負担」是正策

高齢者の増加による医療・介護サービスの増加は、社会保障費の支出が上昇していきます。社会保障費の支出が増える一方で、負担する側の現役世代が減少していきます。少子化によりすでに人口が減り始めている状況では、現役世代が大幅に増えていくことは望めません。

 

現在、国が考えていると思われることは、負担を受ける側と負担する側のバランスを変えることにあります。社会保険の加入基準を緩くすることや定年延長はそのための方策と考えなければなりません。

 

これからは、年金の支給年齢を上げ、定年延長をすることにより働かざるを得ない人々が増えていきます。働くことにより保険料を納めることで負担する側が増えることは間違いありません。

 

さらに、外国人労働者を増加させ、保険料を納めてもらうことも国は想定していると思われます。これから社会保障関連費の負担をどのように確保し、効率的で効果的に配分するかが医療・介護政策の課題となります。

「世界一の保険サービス」を実現した2つの制度

WHOの報告では、保健サービスの到達度(平均寿命・健康寿命)において、日本が世界一でした。この快挙は、「国民皆保険制度」と「フリーアクセス」という2つの制度なくしては、なしえなかったといわれています。

 

治療を受けたいとき、健康保険証があれば日本全国どこの医療機関でも、安価に医療を受けることができるのは、この2つの制度のおかげです。

 

ドラッグストアで風邪薬を買うよりも、医療機関に行ったほうが安くなるのですから、日本の医療制度は素晴らしいものです。

 

「フリーアクセス」とは、大病院でも診療所でも、自由に好きなところを受診できるという意味ですが、近年は、患者が病院、とくに大病院に集中して受診する傾向が顕著になってきています。

 

厚生労働省の患者調査の中から、病院と診療所の外来患者数の推移をみると、2000年頃まで病院患者が増えてきました。病院のほうが診療所よりも外来患者に関する医療費がかかるため、患者の大病院志向は、国民医療費の増加要因ともなります。なお、2000年以降の医療政策による病院と診療所の機能分化により病院の外来患者数は減少してきました。

 

病院が診療所と比較して外来医療費が高額になる理由は、病院は高度なMRIなどの医療機器を導入しているところが多く高度な医療機器のもとを取ろうとするためでもあります。

 

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もう「世界一の保険サービス」の維持は限界

世界に冠たる長寿社会である日本は、国民皆保険制度とフリーアクセスを持続していくことが至上命題ですが、高齢化と景気の低迷により、制度を維持することが難しくなってきました。1961年(昭和36年)に国民皆保険制度が産声をあげてから、制度的に見直しの必要性にも迫られています。

 

国民皆保険制度を維持するには、医療保険と自費による診療を同時に行う「混合診療」を積極的に導入するほか、フリーアクセスに規制を設ける必要性が出てくるでしょう。

 

 

木村 憲洋

高崎健康福祉大学 健康福祉学部 医療情報学科 准教授

 

 

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高崎健康福祉大学 健康福祉学部医療情報学科 准教授

1971年栃木県足利市生まれ。

1994年武蔵工業大学工学部機械工学科卒業後、民間病院を経て、現在、高崎健康福祉大学・健康福祉学部医療情報学科准教授。

【主な著書】
『病院のしくみ』『医療費のしくみ』『薬局のしくみ』『看護のしくみ』
(すべて日本実業出版社刊、共著)
『病院経営のしくみ』(日本医療企画刊、共著)

著者紹介

連載マンガでわかる病院と医療のしくみ

マンガでやさしくわかる病院と医療のしくみ

マンガでやさしくわかる病院と医療のしくみ

著:木村 憲洋
シナリオ制作:ユニバーサル・パブリシング
作画:山中 孝二

日本能率協会マネジメントセンター

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