「診療」の司令塔は医師、「病院運営」のトップは理事
病院の組織は、病院運営と診療とで組織の体制が変わります。病院全体の組織を単純化すると図表1のようになります(民間病院である医療法人の例)。
図表1の例では、院長の上に理事会があります。この理事会は株式会社での取締役会にあたり、主に病院の経営の責任を負う組織です。また、株式会社の代表取締役にあたる理事長も存在します。
一方、診療は患者の治療や救命が中心の指示命令系統となります。医師の指示により診療がスタートし、看護師やコメディカルが医師の指示をもとに治療や検査を行います。
図表1のように、経営上の組織は資格別で部門に分かれていますが、治療のときには組織を横断して直接職種間でやりとりが行われます。病院スタッフはどちらの組織が優先されるのかわからなくなることがあります。
病院スタッフの共通認識は、患者を救いたいという思いです。とはいえ、病院運営の組織と医療従事者の間で利害が衝突することがあります。病院は経営活動を行い、医療機関として存続していかなければなりません。これに対し、病院の従業員である医師をはじめ医療従事者は、ときには病院の利益に反する治療を行うことがあります。それは、病院の経営方針以前の問題として、国家資格を取得する教育課程では人命が第一優先とされているところからくるものです。
いまの日本の医療現場は、治療が優先され、医療従事者個々の裁量に任されているため、質の高い医療が行われているともいえます。
医療技術を発展させるため様々な「委員会」が乱立
【感染症対策委員会】
感染症対策委員会は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染が社会問題となったときに診療報酬点数で感染対策委員会を設置することで報酬が得られるように規定されました。院内感染や感染症に関する対策について規定を作成したり、院内におけるさまざまな感染症について周知することを目的として活動しています。
【褥瘡対策委員会】
高齢化とともに寝たきり患者が増加しています。寝たきりの患者は褥瘡(じょくそう=床ずれのように、寝たきりの患者が皮膚を圧迫してしまうことによる皮膚の潰瘍)になると長期入院になりやすいものです。そのため、医療の質を向上する観点から、褥瘡対策委員会の設置が診療報酬点数で報酬が得られるように定められました。
褥瘡対策委員会は、褥瘡治療経験のある医師や看護師を中心として、褥瘡の予防や褥瘡ができてしまった場合に早くよくなることを目的に活動しています。
【医療安全対策委員会】
有名病院などでも医療事故が頻発している昨今、どの医療機関でも安全な医療を提供する体制の整備が求められており、医療事故への対策が官民で進められています。医療安全対策委員会の設立は、こうしたことを背景に設立が定められました。
この委員会は、ヒヤリ・ハット(作業中に「ヒヤリとした、ハッとした」というような経験事例)の事例収集と事例の検討、業務改善や患者の医療安全のための業務設計を行うことを目的として運営されています。こちらも診療報酬点数において報酬が得られるようになっています。
【医局会】
医局会は、病院の診療方針や症例検討を行う場です。院長をはじめ医師が中心となる会議ですが、事務長や看護部長が参加している病院も多くあります。CTなど大型医療機器の導入についてもこの会議で協議し、経営会議で最終決定が下されます。
【薬事委員会】
医薬品の採用や、院内における医薬品の情報について議論・交換する場です。医薬品採用の手順や、採用ルールもあわせて検討・決定している病院も少なくありません。一般的には、医局会と一緒に行われているようです。
【経営会議】
院長、事務長、看護部長が中心となって、経営全般についての話し合いが行われます。たとえば、病院の収支や予算、今後の運営方針などが議題に上がります。医局会で協議したCTなどの大型医療機器の導入についても、この会議で最終決定されます。
このほか、患者の満足度向上委員会や給食委員会、看護師長会議、医療材料委員会などあります。
各部門内においても、医療技術の発展のためにさまざまな委員会を抱えている病院は少なくありません。病院組織は複雑ゆえ、委員会は乱立する傾向があります。
木村 憲洋
高崎健康福祉大学 健康福祉学部 医療情報学科 准教授
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