「実行・交渉フェーズ」では、トップ面談が行われる
<売り手企業オーナー>
買収に関心を示す会社が見つかれば、買い手候補企業との折衝が始まります。通常、先方は「インフォメーション・メモランダム」等である程度内容を理解していますので、それを基に突っ込んだ質問がくるケースが多いです。
質疑応答を繰り返し、買収に前向きの場合、社長どうしの面談=トップ面談の要請が来ますので、真摯に対応するようにしましょう。その際、買い手候補企業経営者をしっかり観察し、自社を任せられる人かどうか、経営に関する考え方等を把握するようにしましょう。
その一方、譲渡した場合の手取り金額やスキームの精査をしておきます。買い手候補企業が価格を含めた買収意向を固めると、「意向表明」をしてきます。買い手候補企業経営者の考え方や条件等に納得できれば「基本合意」へと進み、その後、デューデリジェンス(企業価値の査定やリスクなどを調査する作業のこと)対応へと進んでいきます。
<買い手企業経営者>
開示された資料を基に検討を進めますが、疑問点や不明点はどんどん質問を投げかけましょう。買収に前向きとなれば、売り手企業オーナーとの面談を申し込みます。売り手企業オーナーの「人となり」や考え方、会社内や現場、工場などを案内してもらい、社風なども把握するように努めましょう。
そして買収の意向を固めたら意向表明を行います。ここで、買収価格等の主な条件を伝えます。売り手企業オーナーが承諾すれば「基本合意」契約、その後、デューデリジェンスへと進みます。
「クロージングフェーズ」で、双方の合意でM&A成立
<売り手企業オーナー>
デューデリジェンスを経て最終的な条件を提示してきますので、納得がいけば最終契約、クロージングへと進みます。なお、クロージングとは、株式譲渡や事業譲渡の引渡し手続きと譲渡代金の支払い手続きにより、M&Aが完了する最後の手続きのことです。
<買い手企業経営者>
デューデリジェンスの結果を踏まえ、買収するのか、あるいは止めるのかを判断します。買収するのであれば、最終的な条件を提示し、売り手企業オーナーと合意できれば最終契約を締結、クロージングへ進みます。
売り手企業オーナーはここで終了しますが、買い手企業経営者にはまだやることが残っています。それは、「PMI」と呼ばれる工程です。
PMIとは、Post Merger Integrationの略で、M&A成立後の統合プロセスのことを指します。買収後の経営戦略や経営管理体制、人事労務面での見直し等、早期に成果を発揮するために必要な施策を打っていくプロセスです。子会社化して当面は自主性を重んじる場合はともかく、事業譲渡等で自社と統合していく場合はとても重要です。
「売り手企業」「買い手企業」それぞれで重要なこと
ここまでM&Aの一般的なプロセスを見てきました。一連の動きの中で、売り手企業オーナーにとって重要な点をお伝えします。それは、「情報管理」です。M&Aは会社の最高機密情報です。知っている人は最小限でなければなりません。社員、取引先、取引銀行等、誰にどのタイミングで開示するかは慎重に検討すべき事項です。
さらに、売り手企業オーナー、買い手ともに大切な点をお伝えします。それは「クイックレスポンス」「誠実さ」「綿密なコミュニケーション」の3点です。相手からの質問に対してはできる限り早く回答する、誠実に嘘偽りのない対応をすることがとても大切です。
M&Aは「勘定」と「感情」です。もちろん、勘定は金額のことですから当然ですが、それと同じくらいに感情が大切です。
なかなか質問の答えが返ってこない、要請した資料が出てこないでは信頼関係が構築できず前に進むことはできません。筆者も、ちょっとしたボタンの掛け違いでM&Aが破談した例をいくつも見てきました。ましてや、都合の悪い情報を隠していたとなれば、不信感が募り、破談になります。
また、依頼したFAにスピード感が欠けていたり、コミュニケーションに難があれば売り手企業オーナー、買い手企業経営者に原因がなくとも上手くいかないでしょう。その場合はFAを替えることも検討してください。
人間だけが持つ「感情」を意識し、相手からの依頼にはできる限りスピーディーに、誠実に対応するように心掛けましょう。
濵島成士郎
株式会社WealthLead
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