製造業のM&A――売却成功の決め手は「技術力」と「人材」

前回は、同業界・同業種の軸から離れたM&Aの売却先について取り上げました。今回は、製造業のM&Aにおいて売却成功のカギを握る「技術力」と「人材」について見ていきます。

独自の技術や特殊な加工技術は買い手にとって魅力的

製造業のM&Aでは特殊な技術が決め手となることがあります。特に日本は高度な技術力には定評があるので、高い技術を備えているにもかかわらず、規模は小さい企業というのも多いものです。独自の技術や特殊な加工技術を持つ中小製造業は大変魅力的な存在なのです。

 

例えばメッキ会社と一口に言っても、どのような部品にメッキ処理をしているかで技術力を測ることができます。比較的簡易な形状の部品にメッキ処理する技術は一般的なのかもしれませんが、複雑な形状や長尺の部品などにメッキ処理できる技術となると、そのレベルは上がってきます。また、それに対応した設備を持つ中小製造業は少ないはずなので希少価値が出てきます。

 

そこまでのレベルではなくても、例えばプレス加工メーカーで、自社で金型設計まで領域を広げて取り組んできたものの、なかなか完成度の高い金型がつくり込めていないという企業があったとします。この企業にとっては、まさに現在、金型の設計・製造をしている企業が、買い手にとって魅力的な企業だといえるでしょう。

 

他にも極小で精密な金属をプレス加工できる技術を持つ会社、特殊なへら絞り加工技術を持つ会社となれば少数ですし、その技術力の高さを売りにできます。

 

こういった高い技術は廃業によって失うのではなく、M&Aによって継承するというのが、製造業だけでなく今後の日本にとっても大事なことです。技術を求めている相手を探して継承して欲しいと考えます。

 

一つ注意することと言えば、技術は誰が見ても明らかというものでない限り、評価されにくいところです。製造業に精通しているアドバイザーに見てもらうなどして、しっかりと企業価値に反映したり、長所としてアピールしたりすることが必要になってきます。

機械化・自動化が進んでも熟練工は必要不可欠な存在

数年前、製造業で大きく取り上げられた話題が、団塊の世代の大量退職による技術の伝承です。どれだけ製造工程の機械化・自動化がすすみ、IoTの時代になっても、製造業における熟練工は製造工程において欠かせません。

 

例えば、自動車メーカーの最終工程で官能検査というものがあります。それは高級車のハンドルや内装を熟練工が撫でて、不良品を見つけるというものです。ハンドルは円を描いていますが、樹脂の成型品のため微妙な温度差でかすかに円がゆがむことがあります。

 

それはどんなに精密なレーザー測定器を使っても発見できませんが、この検査の担当者であれば、撫でるだけで正円か否かが瞬時にわかるそうです。

 

中小製造業においては、こうした技術を長年の経験によって肌で覚えた「職人」的な従業員を抱えているところが少なくありません。金属を磨いてミクロン単位の凹凸まで見分けるなど、技能オリンピックに出場するような、高い技術を持った従業員はそれだけで買い手側の企業からすれば大きな魅力となります。

 

これからの時代、そういった技術者が多く在籍している中小製造業は喉から手が出るほど欲しいという企業が増えてくるはずです。また、高い技術を備えている人がいなくても、従業員が多い、若手が多いといったことも長所になります。

 

ある大手製造業の役員の方からは、全国の取引先候補を見て回っている中で最も重視するのは供給能力だという話を聞いたことがあります。いかに技術が高いか、いかにコスト競争力があるかも大事なことではあるのですが、安定供給ができなければ仕事が成り立たないからです。最も基礎となる人材が確保できている中小製造業というのは、今後しばらくはニーズが高いと言えるでしょう。

ASAKビジネスコンサルティング株式会社 代表取締役

1966年 愛知県生まれ。横浜国立大学経営学部卒業後、株式会社デンソーに入社。人事部門、事業企画部門を担当。また、在職中に税理士資格の取得にもチャレンジし取得。
2002年会計事務所を開業。2006年コンサルティング部門であるASAKビジネスコンサルティング株式会社及び資産管理・不動産部門であるASAK財産コンサルティング株式会社を設立、代表取締役に就任。会計業務のみならず人事、事業企画、事業計画、戦略立案、事業F/S、原価計算・人事制度の構築、システム導入などあらゆる経営課題に対応し、法人から個人のお客様に至るまで、さまざまなニーズにきめ細かいサービスを提供している。十数年間にわたるメーカー勤務時代に築いたノウハウ・人脈をフル活用し、特に製造業のコンサルティングに強みを持つ。

著者紹介

連載中小製造業の強みを生かして圧倒的高値で売却する方法

本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

浅岡 和彦

幻冬舎メディアコンサルティング

自分が高齢になってもその技術や従業員を守っていきたい、自社の技術を信頼してくれる取引先に迷惑をかけたくない──これは中小製造業の社長に共通する願いでしょう。 しかし、社長の思いに反し、多くの会社がいま存続の危機…

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