本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

大企業・製造業・業況判断DIは+5と19年9月調査(+5)以来のプラス

大企業・製造業・業況判断DI 不透明感で先行き+4へ低下、「悪い」は減少

雇用や、設備判断で過剰感拡大せず、21年度全規模設備投資計画(含ソフト)+2.3%

 

 

 

●3月調査日銀短観では、大企業・製造業・業況判断DIが+5と12月調査の▲10から15ポイント改善し19年9月調査の+5以来のプラスに転じた。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため緊急事態宣言が発出された時期であり、食料品が1ポイント悪化するなど芳しくない業種もあったが、足元の輸出持ち直し生産は増加基調という経済活動回復の効果が出て、12月調査より製造業全体の景況感は改善した。

 

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は17年12月調査で4%まで低下したが、そこを底に19年12月調査では12%、20年3月調査では19%と増加し、6月調査で41%まで大きく増加した。しかし一転、9月調査では34%まで低下し、前回12月調査の22%に続き、今回21年3月調査では14%まで低下した。

 

●なお、今回3月調査で「悪い」と答えた割合は「最近」の14%に対し、「先行き」では10%と4ポイント減少の見込みであり、悪くない。但し、「良い」と答えた割合は「最近」では19%、「先行き」では14%でこちらは5ポイント減少の見通しとなっている。

 

 

 

●3月調査の大企業・製造業の業況判断DI+5は9月調査の「先行き」見通し▲8を13ポイント上回り、足元の景況感が先行き予想を上回ったことになる。

 

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIは+4と「最近」の+5から1ポイントの悪化が見込まれているが、「悪い」が増えるわけではなく、新型コロナウイルスの感染状況に対する不透明さが影響していると思われる。

 

●3月調査の21年度下期の想定為替レートは106円07銭で、足元の実際の為替レート(4月1日東京市場午前9時:1ドル=110円75~79銭)よりかなり円高水準である。

 

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、前回12月調査で▲5のマイナスだったが、今回3月調査では4ポイント改善し▲1になった。

 

●緊急事態宣言が再発動されたこともあって、前回12月調査で業況判断DIが+23だった小売は4ポイント悪化し今回3月調査では+19になった。宿泊・飲食サービスの業況判断DIは、12月調査で▲66だったが、3月調査では▲81と15ポイント悪化した。対個人サービスの業況判断DIは、12月調査で▲43だったが、3月調査では▲51と8ポイント悪化した。一方、情報サービスは12月調査の+23から8ポイント改善し+31になった。

 

●大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は17年9月調査19年12月調査まで4%または5%で安定的に推移していたが、20年に入り悪化、20年3月調査で一気に8ポイント悪化し13%に、6月調査では19ポイントも悪化し32%になった。しかし、9月調査では27%へと低下し、12月調査で21%まで改善した今回21年3月調査でも20%と1ポイントだが改善した。

 

●大企業・非製造業・業況判断DIの「先行き」は▲1と「最近」の▲1と同水準が見込まれている。但し「悪い」と答えた割合は「先行き」は14%で「最近」から6ポイント減少している。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では19%、「先行き」では13%で6ポイントの減少だ。「悪い」と「良い」が同割合で減ることから業況判断DIは変わらない。先行きが見えない新型コロナウイルスの感染拡大の影響に対する不安感の強さが垣間見られる。

 

●中小企業・製造業の業況判断DIは今回3月調査で▲13と12月調査の▲27から14ポイントマイナス幅が縮小した。12月調査の「先行き」見通しでは▲26とみていたので、足元の景況感は13ポイント予測よりも良かったという結果になった。

 

 

 

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、20年3月調査で▲1と14年12月調査の旧企業ベースの▲1以来のマイナスがついてしまった。20年6月調査ではさらに悪化し▲26になったが、9月調査では▲22に、12月調査では▲12やや戻した。今回21年3月調査の▲11という数字は、12月調査時点の「先行き」▲20を9ポイント上回る水準で、予測よりは良かったということになった。

 

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲12と「最近」▲13から1ポイント改善する見通しである。また、中小企業・非製造業は「先行き」を慎重にみる傾向があり、▲16とこちらは「最近」▲11より5ポイント悪化する見通しである。

 

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになり、以降プラスが続いていたが、20年3月調査で▲4と19年12月調査の+4からマイナスに転じ、6月調査では▲31と2ケタのマイナスになった。しかし、9月調査では▲28に、12月調査で▲15、今回21年3月調査で▲8と3期連続で改善した。「先行き」は▲10と2ポイント悪化の見通しだ。持ち直し基調にはあるが、終息が見通せない新型コロナウイルスの影響が先行きの景況感に影を落としている。

 

●雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)では大企業・中堅企業・中小企業と全産業・製造業・非製造業のすべての組み合わせで、今回3月調査では前回12月調査に続いて、変化幅がプラス(相対的に過剰が増加)になったものがなかった。先行き見通しでも変化幅がすべての組み合わせでプラスがない。雇用に関しては、厳しい環境にはあるが、企業の判断では、雇用の過剰感が増しているという状況にはないことがわかる明るい数字になった。

 

●3月調査の20年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲3.8%と12月調査の▲1.2%から下方修正になった。一方、20年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲11.1%と12月調査の▲13.9%から上方修正された。中小企業は調査のたびに上方されるという傾向は維持されたが、改善幅は小幅だった。20年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は▲5.5%になった。先行きの新型コロナウイルスの影響が読めない企業が設備投資に慎重になっていた様子が窺われる。一方、21年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+0.5%と若干の増加になっている。

 

●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2020年度計画・前年度比は、大企業・全産業で▲3.5%、中小企業・全産業で▲11.7%だった。20年度の全規模・全産業では▲5.1%になった。一方、21年度の全規模・全産業では+2.3%と増加見通しになっている。

 

●生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)の変化幅も雇用判断DIと同じような結果になった。大企業・中堅企業・中小企業と全産業・製造業・非製造業の、「最近」「先行き」のすべての組み合わせで、今回3月調査でも前回12月調査と同様に変化幅がプラスになったものはなかった。20年度の設備投資計画の下方修正は、設備の過剰感から来ているものではなく、新型コロナウイルスの感染拡大懸念によるものであることがわかる。

 

●「企業の物価見通し」では、全規模・全産業でみて、販売価格の見通しでは、1年後が+0.2%と前回12月調査の▲0.1%の下落から上昇に転じた。3年後が+0.9%と前回から0.3ポイント上昇、5年後が+1.5%と前回12月調査より0.2ポイント上昇した。また、物価全般の見通しでは、1年後が+0.4%と前回より0.1ポイント上昇、3年後が+0.8%と前回より0.1ポイント上昇、5年後が+1.0%とこちらも前回より0.1ポイント上昇となった。今回の短観の企業の物価見通しは先行きの上昇率見通しがやや高まるという内容になった。

 

●日銀短観は、新型コロナウイルス感染拡大による最初の緊急事態宣言発動の影響で製造業・非製造業とも業況判断が大幅に悪化しリーマンショックの時以来の水準になった20年6月調査を底に、業況判断DIは9月調査・12月調査・3月調査と3期連続して改善した。今回の3月調査では、製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業の6つの組み合わせ全てで「最近」の業況判断が12月調査から改善した。先行きは新型コロナウイルス感染拡大への不安感から慎重な見方が継続していることを示唆する内容だった。企業の、雇用や設備の過剰感は高まっていない。日銀がある本石町の発表時点の天気と短観の内容が一致する傾向にあるが、今日の天気と同様に今回の短観は、晴れて暖かくなってきて春を感じさせる内容となったようだ。
 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年3月調査 日銀短観』を参照)。

 

(2021年4月1日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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