「やはり、認知症の疑いがあります。」妻を病院に連れた日…

なぜ、認知症なんかになるんだ――。物を失くす、使えなくなる、物忘れが増える……。刻々と変わりゆく妻の様⼦に⼾惑う⽇々について、棚橋正夫氏は書籍『認知症介護自宅ケア奮闘記 私の知恵と工夫』で記しています。本記事では、「認知症を発症したかもしれない」と感じるきっかけとなった、生活の変化について解説します。

「今日やったん。どこまで行くの?」

病院に行く日を前もって本人に伝えると気にして前日から落ち着かなくなったり、夜も寝なくなったり、当日になって「私、行かない」という場合もあると聞いていた。当日になって、さりげなく「今日昼から、お父さんと一緒に健康診断に行こか」と誘った。

 

「今日やったん。どこまで行くの?」

「長尾の駅からすぐだから、散歩がてら行こうや。運動しなくちゃ」

「うん。散歩も兼ねて行こか」と機嫌良く了承してくれた。

 

事前に、新田辺診療所に予約を入れておいた。「妻は、認知症の疑いがあるので、本人には健康診断に行くと伝えています。それなりの対応をお願いします」と事前に申し添えをしておいた。

 

診療所の先生に説明するために妻の生年月日、出生地、最終学歴、職業歴、結婚歴、家族構成、病歴、趣味、異常行動を起こした時期をA4にまとめたメモを用意しておいた。自宅から診療所まで、片道40分くらいの道のりだ。散歩にはちょうどいい。

 

行く途中、「お父さん、私、足腰は丈夫やろ元気で歩くやろ」と自慢げに私より先行して歩いてみせた。「うん。元気やな。大したもんや。追いつかれへんわ」と褒めた。今のところ足腰には、問題はなかった。

 

診療所に着いた。予約制なので、待合室には誰もいなかった。妻の健康保険証と先生へのメモを受付に渡した。

 

受付の女性が、「棚橋さん。今日は、健康診断に来られたのですね」と笑顔で妻に言った。「はい。そうです。よろしくお願いします」と笑顔で応えていた。気配りのある、気さくで明るい方だった。

 

「棚橋さん。ご主人からどうぞお入り下さい」と言われたので、「お父さんが先だからお前、ここで雑誌でも見て待ってて」と言い置いて診察室に入った。先生に挨拶して面接した。

「おそらく認知症の疑いがあると思います」

心療内科の先生は、これまでに会った他の科の先生と違っていた。優しい雰囲気で笑顔が素敵で、話しやすく自然と信頼感と包容力を感じた。

 

渡したメモを読みながら、質問された。具体的に、どんな症状が出ていたのか。それは、いつ頃から起こっていたのか。一番困ったことは。過去にどんな病気にかかったか。一通りの問診が終わった。

 

「ご主人のお話から察するに、おそらく認知症の疑いがあると思います。アルツハイマー型認知症だと思われます。脳の神経細胞が、じわじわと死滅していき、脳が萎縮していく病気です。特に情報や記憶を司る海馬が侵されます。

 

本人には自覚症状がなく、10年から20年も前から徐々に進行し、今日に至っています。あとで、奥さんの診察の際、認知症の評価テストを行います。その結果によっては、脳のMRIを撮ってもらうかもしれません。その場合、後日連れてきてあげてください」と親切に説明してくれた。

 

「よく分かりました。よろしくお願い致します」とお礼を言って診察室を出て妻と交代した。先生は、にこにこしながら「こんにちは」と挨拶され、妻は「よろしくお願いします」と少し固くなっていた。私が、側にいると気が散ると思い、「お父さんは、外で待ってるから」と言って診察室を出た。

 

20分くらいして、「お父さん、終わったわ」と診察室から出てきた。普段と変わらなかった。

「次に、ご主人、お入りください」

「次に、ご主人、お入りください」と言われ、再び診察室に入った。

 

先生から、「認知症の知的機能検査、長谷川式認知症スケールテスト(*注)と呼ばれる検査をさせてもらいました。その結果、やはり、認知症の疑いがあります。なので、来週月曜日に宇治の本院までMRIを撮りに行ってください」と告げられた。

 

「はい。分かりました。連れて行きます」

「それから、アリセプトという薬3mgを1カ月分、出しておきます。認知症状を抑える薬です。人によって、下痢とか吐き気を起こす場合がありますので、奥さんの様子を見てあげてください。異常がなければ、薬の量を順次増やしていきます」とも言われた。

 

丁重にお礼を言って、二人で診療所を出た。

 

「お父さん。ここの先生、優しくて感じが良かったわ。私、いろいろと聞かれたわ。答えられないところもあったけど……」

「それでいいんや。来週、宇治の病院に行って、今度は機械で健康診断をすることになったよ。この際、しっかり診てもらおうね」

「うん。どこも悪くないと思うけど、診てもらうわ。また、連れて行って」と不安そうな様子もなく応じてきた。

 

「健康診断に行く」という表現が行く気にさせたと思う。

 

*注 長谷川式認知症スケールテストとは、長谷川和夫氏(医学者、精神科医、認知症介護研究専門家)が考案した認知症検査法で10分~15分の検査。今日は何月何日ですか、ここはどこですか、年齢は、生まれたのはどこかなど10数問ある。

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棚橋 正夫
1936(昭和11)年、神戸生まれの京都育ち。1957年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)に入社。音響部門の技術営業などに携わる。定年後、アマチュア無線、ゴルフなど趣味の道を楽しむ。

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著者紹介

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『認知症介護自宅ケア奮闘記 私の知恵と工夫』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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