重要なのは危機に陥らない「転ばぬ先の杖」
病気は、予防そして早期発見、早期治療が大事だといわれます。会社も同じで、危機に陥らないための「転ばぬ先の杖」を考えていきたいと思います。
ある会社の病気をどうやって見つけるのかというと、まず、医者の「診察」の段階が、私の場合、相談を受けてその会社に入ってデューデリジェンスというのをやることです。後で説明しますが、まず会社の現状を正確に確認するのです。
はじめに社長さんが相談に来るときは、なんとなく売上げは落ちていて、来月、再来月の支払いができないといった、大まかで感覚的な話が多いのです。それでは対策がとれませんから、会社の帳簿や伝票をかき集めて、何が問題なのかを分析していきます。
実は、多くの社長さんたちは、自分の会社が、毎月黒字が出せているかどうかすらはっきりは知らないんです。意外かもしれませんが、そういう社長さんがけっこういます。毎日のせわしさにかまけて、帳簿の数字などろくに見ず、感覚で経営しているのですね。先のC社長もそうでした。まあ、なんとか回っているんじゃないか、と。中小零細企業の社長さんたちは、そういう意味でアバウトな人が多いですね。
今月の売上げは気にするけど、毎月お金が回っていれば、財務戦略には関心をもてないのでしょう。赤字気味だなとか、借り入れが少しずつ増えているな、とは感じています。けれども、これはなんとかしなくては、手を打たなくては、という行動につながる切実な認識になるのは、実際に、支払い資金が足りないと経理から知らされたときが多いのです。
「なんでそんなにお金がないんだ! 売上げは上がってるじゃないか!」
と社長が怒り出している光景が目に浮かびます。
融資がすんなり受けられているときはよいのですが、その融資が受けられずに支払いが迫る。そこで慌てるのです。冷静に対処を考えるには、デューデリジェンスをして数字ではっきり理解する必要があります。
事業の収益力を精査すると会社の実態が見えてくる
デューデリジェンスとは何か。『やさしい日経経済用語辞典』には、「デューデリジェンス(due diligence)とは、「資産の適正評価手続き。不動産や債権、プロジェクトや企業がもつ収益性やリスクなどを複数の観点から評価、公正に調査してその価値を算定する業務」とあります。つまり企業の価値を測るわけですね。
私は、もっぱら事業の収益力を精査します。まず、帳簿と現金の流れから、お金が入ってきて出ていって、利益が出ているか、それを毎月繰り返せるのかを見てみます。再生の場面における初期のデューデリジェンスは、それで十分です。
事業の収益力を3年間精査すれば、たとえば、従業員の給与など固定費を払ったら赤字という状態がずっと続いていて、実は、借り入れの資金だけで事業を回していた実態があぶりだされてきたりします。つまり、やってもやっても、実は赤字だった。なんとか銀行から借りられていたからやっていけたんだと、社長が初めて気付いたりします。
いま1000万円の売上げで赤字だけど、あと何百万円増やせば黒字に転化するとか、社員を一人減らせば黒字にできる、でも、そんなことしなくとも、無駄な交際費や会費を全部抑えるだけで黒字にできる可能性があるとか、そこで初めてわかります。今の窮状を救うために、すぐにお金に替えられるものはないかということも洗い出します。
専門性が高い仕事として、監査法人などが、コストと時間をかけて企業価値と将来性を分析するのが一般的だと思いますが、私の場合、デューデリジェンスの目的が事業の継続性に絞られるので、かなり徹底的に数字をつき合わせますが、事業の収益性のみを精査します。年商40億円くらいの会社でも、10日ほどで完了させるようにしています。
年次ごとの決算書で分析しようとしてもできません。事業の継続性と対策を練りたいのであれば、決算書では全然役に立ちません。単純に資金繰り、お金の出入りだけをきちんと確認するだけで十分だと思います。
事業の収益力を精査するにしても、そこには、経常収支、投資収支、財務収支と大きな区分に分かれます。全部ここで説明するのは大変ですから、とりあえず、経常収支のところだけ説明しましょう。
この話は次回に続きます。