多焦点眼内レンズ、単焦点眼内レンズ…オススメは「こんな人」

年々、白内障手術を受ける人が増加しています。発症する原因はさまざまですが、80代になればほぼ100%の確率でかかることから、誰しも一度は手術を検討することになるでしょう。白内障手術で「よく見える目」を取り戻すには、どんな眼内レンズを選ぶかが重要です。ここでは、医師に希望を伝えやすくするための知識として、「多焦点眼内レンズ」と「単焦点眼内レンズ」の違いを解説します。それぞれ、どのような人にオススメなのでしょうか?

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保険適用で入れられる「単焦点眼内レンズ」

まず焦点、つまりピントがあう場所がいくつあるかで、レンズの種類が異なります。眼内レンズは大きくいうと、焦点がひとつの「単焦点レンズ」と、焦点が2つ以上ある「多焦点レンズ」に分けられます。

 

単焦点レンズというのは、ピントがあう場所がひとつの眼内レンズです。保険適用で、金額的にも少ない負担で入れることができる基本的な眼内レンズです。眼内レンズのピントをどこにあわせるかは、患者と医師とで話しあって決めます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

ピントは「近く」か「遠く」か?見え方を比較

近くにピントをあわせた場合、近くはくっきり見える反面、遠くの視界はぼやけて見えます(図表1)。そのため車を運転するときや遠くを見る必要があるときは、近視用の眼鏡をかけて視力を補います。もともと近視の人や、すでに仕事を退職していて、室内で過ごす時間が長いという人は「軽い近視」にあわせておくと、室内では眼鏡なしで快適に過ごせることが多いと思います。
 

[図表1]ピントを「近く」にあわせると…

 

一方、もともと目がよかった人や遠視の人は遠くにピントをあわせておくと、見え方が自然に近くなります。ただし遠くにピントをあわせると、手もとなど近い位置のものがぼやけて見えにくくなりますから(図表2)、手もとで新聞や本、スマートフォンなどを見るときは老眼鏡をかけることになります。

 

[図表2]ピントを「遠く」にあわせると…

単焦点眼内レンズは「こんな人」にオススメ

最近では高機能な多焦点レンズも多く開発され、レンズの選択肢は広がりました。しかし、人間の視覚や脳は非常に優れており、単焦点眼内レンズでも、手術前に老視のある年齢の方であれば、多くの人は日常生活に不自由は感じません。

 

特に車の運転をする人(特に夜間)や手もとでの細かい作業をする人、緑内障や加齢黄斑変性症などのほかの眼の病気を持っている人は、単焦点レンズが向きます。

メガネなしで「近く」も「遠く」も見える多焦点

次に、焦点の数が2ヵ所以上あるのが「多焦点レンズ」です。現在、日本で認可されている多焦点レンズは「遠く・近く」または「遠く・中間」の2点に焦点があうものと、「遠く・中間・近く」の3点に焦点があうものがあります。

 

多焦点レンズは保険適用ではないため治療費用は自費になります。ただし厚生労働省の定める選定医療に認定されている眼内レンズは、検査などの保険診療と共通する部分について保険が使えます。

 

多焦点レンズのメリットは、2ヵ所または3ヵ所にピントがあうので、眼鏡を使用しなくても広い範囲が見えることです。「眼鏡なしで遠くも近くも見えるようになりたい」という希望に応えて開発されたレンズで、人によってはこのレンズを使用することで、まったく眼鏡がいらなくなることもあります。

 

しかし広い範囲が見えるとはいえ、見えにくい距離も存在します。焦点があう「遠く」と「近く」の中間の距離や、ごく近い距離で細かい文字を読む、精密な作業をするといったときは、眼鏡を使用したほうがいいケースもあります。

むしろ「見えにくくなる人」も…多焦点ならではの症状

また、多焦点レンズは人の目とは異なるしくみで焦点をつくっていて、レンズ表面に小さな溝があるため、レンズに入った光が散乱しやすく、グレア(光のギラギラ感)やハロー(光の輪やにじみ)が生じやすいという特徴があります(図表3、4)。特に夜に車を運転する人や、白内障の程度が軽い人などは要注意です。

 

[図表3]グレア現象

 

[図表4]ハロー現象

多焦点眼内レンズは「こんな人」にオススメ

この多焦点眼内レンズが登場した当初、海外などでは「遠くも近くも見えて、老眼が治る」ということで白内障のない人にも多焦点眼内レンズ挿入の手術がたくさん行われたことがあります。

 

しかし、白内障が進んでもともと光がぼやけて見えていた人には、眼内レンズにハロー・グレアがあっても「以前よりよく見える」という感覚になりますが、もともと老眼が軽く、目が見えていた人は、このグレア・ハローがたまらないということで、結局、ほとんどが眼内レンズを取り換えることになりました。

 

ですから、多焦点眼内レンズを使用するときは、私は患者には必ずこの症状を説明しますし、ほかにも、ピントがあう地点も単焦点ほどはシャープには見えないといった特徴を詳しく話すようにしています。

 

こうした点から多焦点レンズが向くのは、白内障が進んでいる人でできるだけ眼鏡をかけずに生活したい人、夜間の車の運転や手先の細かい作業をあまりしない人、緑内障などのほかの眼の病気を持たない人、などがあげられます。

 

なお、これまで多焦点眼内レンズは自費診療または選定医療のものしかありませんでしたが、新しく「レンティスコンフォート®︎」という2焦点レンズが保険適応になり、保険診療と同じ費用で入れられるようになっています。

 

ただし、このレンズは遠くと中間の2焦点で、近くはやや見づらくなります。また単焦点レンズと同じ費用で多焦点が入れられるならそのほうがいいと、安易に飛びつくのは危険です。多焦点は単焦点と見えるしくみが異なるため、まれに十分な視力が出ないなどの不適応症例も報告されています。保険診療の眼内レンズであっても、医師と十分に話し合い、自分に本当に合ったものを選ぶことが大切です。

 

[図表5]眼内レンズの見え方の違い

 

 

市川 一夫

日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士

 

市川 慶

総合青山病院 眼科部長

 

 

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株式会社中京メディカル 代表取締役 日本眼科学会認定専門医・認定指導医
医学博士

1978年愛知医科大学医学部医学科卒業。83年、名古屋大学大学院医学研究科博士課程外科系眼科学修了。社会保険中京病院眼科医長、主任部長を経て現在眼科顧問。眼科医療の世界では一人の医師が行う白内障治療手術の平均が年間200~300眼程度とされる中で、今でも年間3,000眼以上を執刀し生涯執刀数は80,000眼を超える。

94年、中京病院を中核とするクリニックグループを支援する株式会社中京メディカルを設立し眼科専門医の指導育成にも尽力する。ライフワークともいえる色覚研究歴は42年。83年より白内障治療における色覚の補正に着目し、世界初の着色眼内レンズを開発して商品化する。

92年、米国ASCRS(American Society of Cataract and Refractive Surgery)のフィルムフェスティバルにて“Natural View IOL(NV-IOL)and chromatopsia”(着色眼内レンズ)の題名で1st prizeを獲得。92年から日本臨床眼科学会にて色覚インストラクションコースを担当。2020年から公益社団法人日本白内障屈折矯正手術学会の理事長に就任。現在色視力の測定装置を開発し、色視力の普及にも尽力している。

公益社団法人日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)理事長/ヨーロッパ眼科学会(ESCRS)会員/アメリカ白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)会員/アメリカアカデミー眼科学会(AAO)会員/日本産業・労働・交通眼科学会理事/日本眼科学会専門医制度認定指導医/日本臨床眼科学会専門別研究会「色覚異常」世話人/中京グループ会長/医療法人いさな会中京眼科視覚研究所所長/JCHO中京病院眼科顧問

著者紹介

総合青山病院 眼科部長 

2008年愛知医科大学医学部卒業。2008年4月より社会保険中京病院にて勤務を開始する。2010年より中京病院の眼科を担当。2013年7月からは岐阜赤十字病院眼科で診療・執刀を行う。2016年、Best of JSCRS(Cataract)受賞。2019年7月より総合青山病院にて眼科部長に就任。専門領域は白内障手術、眼形成。レーザー白内障手術、日帰り白内障手術執刀医として第一線で活躍している。

アメリカ白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)、アメリカアカデミー眼科学会(AAO)、眼科手術学会、白内障学会、日本眼形成再建学会、日本涙道・涙液学会、眼感染症学会、日本眼内レンズ屈折手術学会、米国白内障屈折矯正手術学会に所属。水晶体研究会世話人。

著者紹介

連載「一生よく見える目」を手に入れる白内障手術

※本連載は、市川一夫氏・市川慶氏の共著『「一生よく見える目」を手に入れる白内障手術 改訂版』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

「一生よく見える目」を手に入れる白内障手術 改訂版

「一生よく見える目」を手に入れる白内障手術 改訂版

市川 一夫

市川 慶

幻冬舎メディアコンサルティング

自分の目に合う白内障手術とは? 約8万眼の白内障手術を行ってきた日本トップクラスの白内障専門医が徹底解説! 「レンズは何を選べばいいの?」 「手術に失敗したらどうする?」 「レーザー手術がいいっていうけれど本…

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