保険適用で入れられる「単焦点眼内レンズ」
まず焦点、つまりピントがあう場所がいくつあるかで、レンズの種類が異なります。眼内レンズは大きくいうと、焦点がひとつの「単焦点レンズ」と、焦点が2つ以上ある「多焦点レンズ」に分けられます。
単焦点レンズというのは、ピントがあう場所がひとつの眼内レンズです。保険適用で、金額的にも少ない負担で入れることができる基本的な眼内レンズです。眼内レンズのピントをどこにあわせるかは、患者と医師とで話しあって決めます。
ピントは「近く」か「遠く」か?見え方を比較
近くにピントをあわせた場合、近くはくっきり見える反面、遠くの視界はぼやけて見えます(図表1)。そのため車を運転するときや遠くを見る必要があるときは、近視用の眼鏡をかけて視力を補います。もともと近視の人や、すでに仕事を退職していて、室内で過ごす時間が長いという人は「軽い近視」にあわせておくと、室内では眼鏡なしで快適に過ごせることが多いと思います。
一方、もともと目がよかった人や遠視の人は遠くにピントをあわせておくと、見え方が自然に近くなります。ただし遠くにピントをあわせると、手もとなど近い位置のものがぼやけて見えにくくなりますから(図表2)、手もとで新聞や本、スマートフォンなどを見るときは老眼鏡をかけることになります。
単焦点眼内レンズは「こんな人」にオススメ
最近では高機能な多焦点レンズも多く開発され、レンズの選択肢は広がりました。しかし、人間の視覚や脳は非常に優れており、単焦点眼内レンズでも、手術前に老視のある年齢の方であれば、多くの人は日常生活に不自由は感じません。
特に車の運転をする人(特に夜間)や手もとでの細かい作業をする人、緑内障や加齢黄斑変性症などのほかの眼の病気を持っている人は、単焦点レンズが向きます。
メガネなしで「近く」も「遠く」も見える多焦点
次に、焦点の数が2ヵ所以上あるのが「多焦点レンズ」です。現在、日本で認可されている多焦点レンズは「遠く・近く」または「遠く・中間」の2点に焦点があうものと、「遠く・中間・近く」の3点に焦点があうものがあります。
多焦点レンズは保険適用ではないため治療費用は自費になります。ただし厚生労働省の定める選定医療に認定されている眼内レンズは、検査などの保険診療と共通する部分について保険が使えます。
多焦点レンズのメリットは、2ヵ所または3ヵ所にピントがあうので、眼鏡を使用しなくても広い範囲が見えることです。「眼鏡なしで遠くも近くも見えるようになりたい」という希望に応えて開発されたレンズで、人によってはこのレンズを使用することで、まったく眼鏡がいらなくなることもあります。
しかし広い範囲が見えるとはいえ、見えにくい距離も存在します。焦点があう「遠く」と「近く」の中間の距離や、ごく近い距離で細かい文字を読む、精密な作業をするといったときは、眼鏡を使用したほうがいいケースもあります。
むしろ「見えにくくなる人」も…多焦点ならではの症状
また、多焦点レンズは人の目とは異なるしくみで焦点をつくっていて、レンズ表面に小さな溝があるため、レンズに入った光が散乱しやすく、グレア(光のギラギラ感)やハロー(光の輪やにじみ)が生じやすいという特徴があります(図表3、4)。特に夜に車を運転する人や、白内障の程度が軽い人などは要注意です。
多焦点眼内レンズは「こんな人」にオススメ
この多焦点眼内レンズが登場した当初、海外などでは「遠くも近くも見えて、老眼が治る」ということで白内障のない人にも多焦点眼内レンズ挿入の手術がたくさん行われたことがあります。
しかし、白内障が進んでもともと光がぼやけて見えていた人には、眼内レンズにハロー・グレアがあっても「以前よりよく見える」という感覚になりますが、もともと老眼が軽く、目が見えていた人は、このグレア・ハローがたまらないということで、結局、ほとんどが眼内レンズを取り換えることになりました。
ですから、多焦点眼内レンズを使用するときは、私は患者には必ずこの症状を説明しますし、ほかにも、ピントがあう地点も単焦点ほどはシャープには見えないといった特徴を詳しく話すようにしています。
こうした点から多焦点レンズが向くのは、白内障が進んでいる人でできるだけ眼鏡をかけずに生活したい人、夜間の車の運転や手先の細かい作業をあまりしない人、緑内障などのほかの眼の病気を持たない人、などがあげられます。
なお、これまで多焦点眼内レンズは自費診療または選定医療のものしかありませんでしたが、新しく「レンティスコンフォート®︎」という2焦点レンズが保険適応になり、保険診療と同じ費用で入れられるようになっています。
ただし、このレンズは遠くと中間の2焦点で、近くはやや見づらくなります。また単焦点レンズと同じ費用で多焦点が入れられるならそのほうがいいと、安易に飛びつくのは危険です。多焦点は単焦点と見えるしくみが異なるため、まれに十分な視力が出ないなどの不適応症例も報告されています。保険診療の眼内レンズであっても、医師と十分に話し合い、自分に本当に合ったものを選ぶことが大切です。
市川 一夫
日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士
市川 慶
総合青山病院 眼科部長
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