なぜ、認知症なんかになるんだ――。物を失くす、使えなくなる、物忘れが増える……。刻々と変わりゆく妻の様⼦に⼾惑う⽇々について、棚橋正夫氏は書籍『認知症介護自宅ケア奮闘記 私の知恵と工夫』で記しています。本記事では、「認知症を発症したかもしれない」と感じるきっかけとなった、生活の変化について解説します。

これまで、他人のせいにするような彼女ではなかった。

台所に戻り、花の好きな妻に、「咲きかけていた木蓮の花がピンク色で咲いていたよ。可愛いらしい小鳥も止まって、お父さんが近づいても逃げなかった。何でやろ」と話題を変えた。

 

「えっ。そうなん。もう咲いたの、私もあとで見に行くわ。それより、お父さん、朝ご飯食べようか」ともう機嫌を直して笑顔で返してくれた。

 

昔から、場の空気を悟り、まずいと思うと、明るく振る舞う笑顔の妻が好きだった。当時は、いつも食事を作ってくれていた。妻のみそ汁は、食堂を営んでいた母親仕込みでとても美味しかった。

 

「みそ汁、おいしいわ。寒いときは、これに限るね」「そうね」と会話をしながら二人で朝食を食べた。

 

妻の性格は、明るくて朗らかで素直なタイプだ。これまで、他人のせいにするような彼女ではなかった。冷凍庫に包丁を入れたことを、完全に忘れていたので私のせいにしたのだと思う。

 

気が付かなかったが、そのとき、既に妻は認知症を発症していたと思う。

 

「俺ではない。お前しか包丁を使わないだろ」と怒って問い詰めていたら喧嘩になった。妻に不満だけが残り認知症をより早めていたかもしれない。

 

「包丁、出てきたから良かった」「木蓮の花が咲いて、小鳥がいた」と、話題を切り変えて優しく接したのが良かったと思う。

 

極力、我慢して怒らないのが私のモットーだった。

 

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棚橋 正夫
1936(昭和11)年、神戸生まれの京都育ち。1957年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)に入社。音響部門の技術営業などに携わる。定年後、アマチュア無線、ゴルフなど趣味の道を楽しむ。

本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『認知症介護自宅ケア奮闘記 私の知恵と工夫』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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