先週の米ドル/円は、米金利上昇に連れる形で109円を突破、米ドル高一服後も高値圏での推移となりました。FX開始直後から第一線で活動している、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は「『日米金利差米ドル優位』の傾向が続いたことが要因ではないか」と述べています。今回は吉田氏が、米国の注目イベントFOMC迫るなかでの、米ドル/円の今後の展開を予想します。

「3/15~3/21のFX投資戦略」のポイント

[ポイント]​

・米金利は短期的な「上がり過ぎ」懸念がきわめて強くなっている。しかし、修正に向かう手掛かりがなかなかつかめない。

・FOMCの意識とは別に、今週の注目イベントのFOMCを口実に、米金利相場が「上がり過ぎ」の修正に向かう可能性はある。

・最近の米ドル/円は、米金利が主役の日米金利差と連動。このため、米ドル/円の行方も注目イベントであるFOMC前後の米金利次第か。

 

米ドル/円、今後の展開は?(画像はイメージです/PIXTA)
米ドル/円、今後の展開は?(画像はイメージです/PIXTA)

「米金利上昇=米ドル高」続いた先週…今週はどうなる

先週の米ドル/円は、週明け早々、米金利上昇に連れる形で109円を突破、その後米ドル高も一服したものの、反落は限定的にとどまり、高値圏での推移となりました。これは、日米金利差米ドル優位の傾向が続いたことが要因だと考えられます(図表1参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表1]米ドル/円と日米金利差 (2020年12月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

そんな金利差の主因は米金利でしょう。米10年債利回りは、1.6%突破で一旦低下に転じたものの、週末には改めて1.6%を大きく上回ってきました(図表2参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表2]米10年債利回りの推移 (2020年10月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

ただし米10年債利回りを90日MA(移動平均線)からのかい離率で見ると、空前の「上がり過ぎ」懸念が強い状況が続いている可能性がありそうです(図表3参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表3]米10年債利回りの90日MAからのかい離率 (2000年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

このように、行き過ぎた懸念が強いなかでも、米金利上昇が先週も続いたのは、米バイデン新政権が1.9兆米ドルといった大規模な追加経済対策を成立させた影響が関係しています。この政策に対しては、2020年3月のコロナ・ショック以降、景気回復見通しが広がるなかでは、むしろ「too much」であり、景気の過熱を招きかねないとの批判もあります。

 

移動平均からのかい離率などで見ると、米金利はさすがに短期的には「上がり過ぎ」懸念がきわめて強くなっているようです。ただそれが修正に向かう手掛かりがなかなかつかめない、先週はそういった理由で「米金利上昇=米ドル高」が続いた可能性が高いでしょう。

今週開催の「FOMC」で、米金利上昇は一服なるか?

今週は米国の金融政策会合であるFOMCが予定されています。米金利の「上がり過ぎ」修正のきっかけになるのでしょうか。

 

結論からいうと、FRBは基本的に最近にかけての金利上昇を懸念しておらず、そもそも金利上昇をすぐに止める手段もない可能性が高いのです。ただそうはいっても、これまで見てきたように、米金利は記録的な「上がり過ぎ」の可能性があるので、結果的にFOMCが行き過ぎ修正のきっかけになる、ということは考えられます。

 

まず、米金利と景気の関係を確認しましょう。米金利は、名目金利からインフレ率を引いた実質金利で見ると、代表的な米景気指標の一つであるISM製造業景況指数で基本的に説明できる関係にあります(図表4参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
[図表4]米実質金利とISM指数(2010年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

 

まさに、「金利は景気で決まる」ということを裏付けたようなグラフですが、これを見ると、最近の金利上昇は景気回復へのキャッチアップといえるでしょう。金利上昇は景気悪化をもたらすとしてFRBが懸念する状況ではないでしょう。

 

そもそも、金融政策により短期金利には影響力の大きい中央銀行ですが、長期金利への影響力には限界があります。ちなみに、政策金利のFFレートと長期金利の指標である米10年債利回りとの関係を見ると、米10年債利回りはFFレートを最大3%前後も上回ることがありました(図表5参照)。また、2000年以降のFFレートと米10年債利回りのスプレッド(金利差)の平均は1.5%でした。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表5]FFレートと米10年債利回りのスプレッド(2000年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

 

上記のFFレートは0.25%で計算しているので、それを1.5%上回るということは、米10年債利回りが1.75%以上となって、2000年以降のFFレートとの平均スプレッド以上に米10年債利回りが上昇したことになります。

 

逆にいえば、スプレッドが1.5%未満の最近の状況では、FFレートと米10年債利回りの関係は、2000年以降では平均以下ということになるのです。そういったなかで、FRBが米金利の上昇に警戒を強めるということには、考えづらいでしょう。

 

米金利上昇の「行き過ぎ」の可能性を示していたのは、90日MAからのかい離率でした。その意味では、金利市場は、米金利上昇の「行き過ぎ」を懸念している可能性があります。

 

政策当局の立場からはまだ懸念する段階ではないものの、マーケット的には大いに懸念される段階に入っている可能性がある米金利上昇。FOMCの意識とは別に、相場がFOMCを口実に、米金利「上がり過ぎ」の修正に向かうことが考えられます。

「米ドル/円」の今後の展開は米金利次第

さて、米ドル/円の相関係数を見ると、最近にかけて日米金利差が。1に近いところまで上昇してきました(図表6参照)。これは、米ドル/円がほとんど日米金利差で決まっていることを示しています。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表6]米ドル/円と日米金利差との相関係数(2020年1月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

米金利が、注目イベントのFOMCを前後し、「上がり過ぎ」拡大に向かうか、それともいよいよ修正で金利低下に向かうか。米ドル/円の目先的な行方は、日米金利差次第となりそうです。
 

 

 

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長

 

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

 

 

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