前回は、経営者が陥りがちな「固定費削減=利益が増える」という思い込みについて取り上げました。今回は、銀行の評価を上げる決算書のポイントについて見ていきます。

金融検査マニュアルで定められた「債務者区分」

前回に引き続き、儲け上手社長が実践している、儲からない原因を突き止め高収益体質に変える「数字の読み方」を見ていきます。

 

その8 合法的に「粉飾」決算する

決算書を作成する場合には、銀行の評価を得られる内容にまとめることを意識することが必要になります。銀行の評価は、一般的に債務者区分と信用格付に基づいて行われることになります。まず、「債務者区分」は、金融庁がまとめた「金融検査マニュアル」の中で定められており、具体的には以下のような区分になっています。

 

(1)正常先

業績が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者。

 

(2)(一般の)要注意先

業況が低調ないし不安定な債務者、財務内容に問題がある債務者、金利減免・棚上げを行っているなど、貸出条件に問題のある債務者、元本返済もしくは利息支払が事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者など、今後の管理に注意を要する債務者。

 

(3)(要注意先の中の)要管理先

要注意先のうち、3カ月以上延滞または貸出条件を緩和している債務者(債権の全部または一部が金融再生法に定める要管理債権である債務者)。

 

(4)破綻懸念先

現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画などの進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者。

 

(5)実質破綻先

法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど、実質的に経営破綻に陥っている債務者。

 

(6)破綻先

法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者。

 

一方、「信用格付」は、「債務者区分」をもとに、債務者をより細かく区分するために銀行が独自に定めたものです。この信用格付は融資の可否や金利の額などを決める基準として使われます。

銀行は売上高が多い会社を高く評価するだけに・・・

では、どのような決算書を作成すれば、信用格付を上げることができるのでしょうか。以下では、損益計算書と貸借対照表に関して銀行の評価をアップするためのポイントを見ていきましょう。

 

損益計算書と貸借対照表の作成ポイントは次のとおりです。それぞれについて順に詳しく解説していきましょう。

 

損益計算書のポイント

売上高を上げる

売上原価(製造原価、工事原価)を下げる

販売費及び一般管理費を下げる

減価償却費への振り替えなど

 

貸借対照表のポイント

固定資産から流動資産へ

●流動負債から固定負債へ

 

①売上高を上げる

銀行は売上高が多い会社を高く評価します。つまり、売上が多いことは格付けの向上につながることになります。そこで、決算書上で売上の数字を増やすための工夫を前向きに試みることをお勧めします。

 

まずは、営業外収益(雑収入)を売上に振り替えてみましょう。具体的には、以下のような(1)から(3)の収入があるのなら、雑収入ではなく売上に含めてしまうのです。

 

(1)手数料収入

(2)家賃収入

(3)鉄くずなどの売却収入

 

また逆に、売上割引などの控除項目がある場合には、売上が減ってしまうので、営業外費用に振り替えてしまいましょう。振り替えられた額だけ、決算書上では売上が増えることになります。

 

②売上原価(製造原価、工事原価)を下げる

売上高と同様に、利益が多いことも格付けのアップにつながります。まずは、粗利を増やしてみましょう。粗利、すなわち売上総利益は、売上高から売上原価(製造原価、工事原価)を差し引くことによって求められます。

 

したがって、売上原価を減らせば、それだけ粗利を膨らますことができます。そのための具体的な方法としては、以下の(1)、(2)の費用については売上原価に含めるのではなく、販売費及び一般管理費(販管費)、特別損失に振り替えるという手法があります。

 

(1)見本品、消耗品

(2)廃棄した商品

 

また、仕入れに関して、値引きを受けた、あるいは割り戻しを受けた場合、営業外費用として計上するのではなく、売上原価からの控除項目に振り替えることで売上原価を減らすこともできます。

 

③販売費及び一般管理費を下げる

さらに営業利益も増やしてみましょう。営業利益は、売上総利益から販売費と一般管理費(販管費)を差し引くことによって求められます。したがって、販管費を減らせば、営業利益を増やすことが可能となります。そのための具体的な手段としては、営業外収益を販管費から引いてしまうという方法があります。

 

たとえば、従業員から社宅家賃や食事負担金を徴収しているような場合、それを雑収入として計上するのではなく、「受け取り家賃」などの名目で販管費の中から差し引くのです。それから、もし、以下の(1)から(5)の費用を販管費に含めているのなら、決算書上では「特別損失」や「法人税」などの科目に振り替えて計上するといいでしょう。

 

(1)役員退職金

(2)役員保険料

(3)修繕費(臨時的な多額のもの)

(4)貸倒引当金繰入額

(5)租税公課(法人税、法人住民税、法人事業税)

 

④減価償却費への振り替えなど

損益計算書上の工夫としては、減価償却費の活用も大きなポイントとなります。減価償却費は、新たな出費を伴わない経費であるため、金融機関にはキャッシュフローと同等に評価されます。たとえば、税引き前利益が10万円で、減価償却費を100万円計上できる場合には、110万円の簡易キャッシュフローがあるとみなされるのです。

 

したがって、たとえばリース資産がある場合などには、減価償却費に振り替えることにより決算書上は“キャッシュ”を増やすことが可能となります。また、青色申告の場合、30万円未満の資産は一括して経費として計上することができます。その際に、科目を「消耗品費」ではなく「減価償却費」としておけば、金融機関に好印象を与えられるでしょう。

 

それから、経費の中には、申告調整の形で処理できるものもあります。申告調整には、利益の額を増やすことができる一方で、経費として処理した場合と同様の額に税金を抑えられる効果があります。

 

たとえば、特別償却費や倒産防止共済(経営セーフティネット共済)の掛け金などについて申告調整を行うことが可能です(倒産防止共済は、取引先事業者の倒産の影響を受けて、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防止するための共済制度です。掛け金総額が800万円になるまで積み立てることが可能です)。

 

次回は、貸借対照表の作成ポイントについて見ていきます。

本連載は、2015年11月12日刊行の書籍『「儲かる」社長がやっている30のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「儲かる」社長がやっている30のこと

「儲かる」社長がやっている30のこと

小川 正人

幻冬舎メディアコンサルティング

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