固定費・変動費の捉え方で経営の方向性は変わる
前回に引き続き、儲け上手社長が実践している、儲からない原因を突き止め高収益体質に変える「数字の読み方」を見ていきます。
【その7 固定費をあえて上げる】
経営ノウハウ本などでは、企業の業績を上げるための方法として、固定費の削減が勧められていることも少なくありません。固定費は、一般に売上に連動して増減しない経費として説明されています。一方、売上に連動して増減する経費は変動費と呼ばれています。
固定費は、その額が粗利益を上回っていれば赤字企業、粗利益と同程度であれば警戒が必要、粗利益を下回っていれば一応安心できるというような形で、経営状況の安全性を確認するためにも使われます。また、労働分配率を計算する際にも固定費の数値が必要となります。
このように、固定費は経営状況を計る物差しとして広く用いられているといえるでしょう。もっとも、決算書ではどの経費が変動費なのか、固定費なのかが示されているわけではありません。
そこで、どのような経費が固定費となるのか、変動費となるのかは具体的に考える必要があるでしょう。
たとえば、洋菓子店でケーキを毎日、100個作って販売している場合を例として、その材料費が固定費なのか変動費なのかを考えてみましょう(売れ残ったケーキは生ものなので、全て毎日廃棄することを前提とします)。
「ケーキ=販売するもの→材料費も販売する量によって変わる」と考えてしまうと、変動費と思ってしまうかもしれません。
しかし、答えは固定費になります。なぜなら、余ったケーキを最終的に廃棄する以上は、100個売れようが、50個売れようが、100個分の材料費は必ずかかることになるからです(図表1)。
このように、ある経費を固定費と変動費のいずれとみなすかは、経営の方向性にも影響を与えることになります。すなわち、経費を変動費ではなく固定費と考えるのであれば、売上にかかわらず必ず毎月一定額を支出することになるので、「これだけの固定費を賄えるだけの粗利を生み出すためにはどうすればいいのか」という視点を経営の軸に置くことが必要となるでしょう。
【図表1 ケーキの材料費は固定費】
固定費をアップして利益が増えるケースもある!?
また、「固定費削減=利益が増える」と思い込むのは危険です。
つまり、ノウハウ本に示されているように、固定費を削れば企業の業績向上に結びつくことになるとは限らないのです。確かに、売上も原価も粗利率も変わらないことを前提とすれば、固定費を下げることにより、その減少分だけ、理論上は利益が増えます。
しかし、逆に、固定費をアップすることで利益が増えるケースもあり得ます。たとえば、“スーパー営業マン”“営業の達人”と呼ばれるような営業のエキスパートを、他社からスカウトしてきて新たに雇い入れたとしましょう。
この人に支払う年俸を1000万円とした場合、固定費は1000万円増えることになります。それでも、この人が1000万円の粗利を稼ぐことができたら、それだけで収支はトントンになります。固定費を上げても、それ以上に粗利の額が増えるのであれば、結果的に企業が得られる利益は大きくなるわけです(図表2)。
にもかかわらず、「固定費削減=利益が増える」と思い込んでいたら、経営者はただただ固定費を減らすことばかりを考えるようになるおそれがあるでしょう。その結果、この例のように、人材を活用して利益を上げるという前向きな発想は生まれなくなるかもしれません。すなわち、「固定費削減=利益が増える」という思い込みが経営者の自由な発想を奪うことになりかねないのです。
【図表2 固定費を上げても利益は出せる】