教育の地域格差をなくす台湾のデジタル活用
都市と地方との教育格差を是正する「デジタル学習パートナー」
「台湾では地方に5Gを優先的に設置している」というお話をしました。その目的の一つとして、「都市と地方の教育格差の是正を図る」ことが挙げられますが、この問題の解決について言えば、5Gを優先的に設置することは、その一つの方法でしかありません。
私たちは、他にも様々な方法を試みています。
たとえば、地方の子どもたちは、都市部の子どもたちに比べて多様な刺激を受ける機会が少ないため、将来の様々な可能性をイメージしてもらおうと、先生がキャリアカウンセラーの役割を担うケースがあります。また、家庭に問題があったり親がいなかったりという場合には、夕方になると先生がその役割の一部を担わなければならないことがあります。これは地方でよく見られる事例です。
こうした都市部の先生とは異なる役割や仕事を求められる地方の先生方は、大変苦労しています。そこで、その苦労を分かち合うために、「デジタル学習パートナー」と呼ばれる人たちを配置しています。これは「都市部の大学生が、デジタル機器を通じて、地方の生徒たちと一緒に学習する」というシステムです。「デジタル学習パートナー」となった大学生は、地方の子どもたちが知らない世界や様々な生活経験が存在することを教えます。それによって、子どもたちの想像力を刺激するのです。
また、この方法によって、先生たちにプレッシャーが集中することを回避できます。「デジタル学習パートナー」がプロの教師の代わりになるわけではありませんが、デジタルの力を活用して、地方に独特の問題を解消する手助けを行っているのです。
こうした都市と地方の教育格差を是正するための努力は、台湾では公共部門だけが行っているのではありません。民間においても様々な成功例が存在することをお伝えしたいと思います。
たとえば、「Teach for Taiwan(略称TFT)」という僻地教育を行っているNPO(非営利組織)があります。TFTは、大学で教員資格を取得したけれど欠員がなくて正規の教員になれない卒業生を募り、僻地に派遣しています。台東(台湾東部)ではTFTから派遣された先生方が、私塾のような形で教育を行っています。
台湾の人たちが素晴らしいと思うのは、政府が着手するのを待つのではなく、必要だと判断すれば民間で始めてしまうスピードとパワーを持っていることです。私の母も、以前は友人と一緒にタイヤル族(台湾の先住民)の信賢部落という場所の近くに「種子学校」という一種の実験学校を設立しましたが、これも「政府の腰が重いのであれば自分たちでやってしまおう」という一つの好例です。
民間の人たちが努力した結果、現在では実験教育に関する三つの法案が成立し、実験学校に対しても通常の制度で運営される学校と同じレベルの自由度が与えられるようになりました。とくに先住民の居住する地域では、先住民の特色を持った実験学校がどんどん設立されて成功しています。原住民族委員会(先住民に関するあらゆる業務を所管する政府機関)からも、それらの学校に多くの資源が与えられています。