留意点1:純資産価額がマイナスとなる場合
仮に先程のケースで土地建物が賃貸物件だったとします。賃貸開始から3年以上経過し、土地については小規模宅地等の特例(50%減額)が利用できて申告上の評価額が3,200万円になったとします。建物と借入金も減少しています。
全体でみると純資産が8,000万円となりますが、分割内容によってはこのとおりとならないケースが出てきます。たとえば次のようなケースです。
相続税では個人ごとに純資産を計算して、それを合計した金額(上記の表では1億円)を基に税金を計算します。
Aさんのマイナス2,000万円は切捨てされて他の相続人の純資産から控除することはできませんので、借入金によって純資産がマイナスになる相続人が生じないか、分割を見据えて確認を行う必要があります。
留意点2:債務控除を実質的に受けられる場合
債務控除は相続人、または包括受遺者でなければ適用を受けることができません。
しかし、相続人でない孫や内縁関係がある方に借入金付きの不動産を遺贈する場合(債務は相続人が承継すべきものですが、受遺者が承継することについて金融機関の承諾を得られたとします)についての取り扱いは特徴的です。
相続人でない孫や内縁関係のない方は相続人ではなく、遺言により包括受遺者となっていなければ、通常の債務控除は行うことはできません。
一方、借金付きの不動産の遺贈のことを「負担付遺贈」といい、「負担付遺贈」により取得した財産の価額は、当該財産の価額から負担額を控除した価額とすることになっています。つまり債務控除を適用するわけではなく、取得した財産の評価自体が債務控除後の価額になりますので、実質的に債務控除が適用できているのと同じことになります。
なお、被相続人が非居住者である場合や相続人が日本国籍を有していない場合など、債務控除ができないケースがありますので、そのような場合は注意が必要です。
留意点3:基本通達による評価が否認されたケース
節税目的で多額の借入金により購入した土地建物を相続し、相続後にこれを売却したケースで、不動産を財産評価基本通達(路線価による通常の相続税評価)によらず、鑑定評価により評価すべきとした東京地裁の判例(令和元年8月27日判決)が税理士の間で大きな話題となりました。
このケースは一般的な納税者がとることができない特殊な行為により、税負担の公平性が保たれないことが明らかであることから、財産評価基本通達を採用するのは適当でないとされた事例です。
当初申告では財産評価基本通達により鑑定評価額の4分の1まで不動産の評価額が圧縮された結果、納税額は生じていませんでした。しかし、更正後の鑑定評価を用いた相続税額の総額は約2億4,000万円超となっている特殊な事例です。
今後、すべての不動産購入を通じた節税が否認されることはないと考えますが、規模が大きくなるにつれ、税務リスクは大きくなる点に留意する必要がありそうです。
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