「ヘッジファンド」とは、様々な運用手法を駆使して相場の下落局面でもプラスの収益を目指すファンドです。投資するにはいくつかコストがかかり、運用益が出た場合に支払う成果報酬も広い意味でのコストになります。今回は、ヘッジファンドを購入する際の判断材料にもなる「ヘッジファンド・マネジャーの報酬体系」について解説します。※本連載は、GCIアセット・マネジメント代表取締役CEOの山内英貴氏の著書『オルタナティブ投資入門―ヘッジファンドのすべて』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「運用者の利益」と「投資家の利益」のバランスが重要

これまで見てきたように、ヘッジファンドの事業モデルにとって、成功報酬のインパクトは大きい。直観的に理解できる通り、投資家にリターンをもたらしたときに大きな報酬を得ることのできる成功報酬は、投資家利益と運用者利益のベクトルを一致させる仕組みである。

 

その一方、損失が生じた場合は投資家のみに帰属する点は、あたかもオプションのようなペイオフ(損益構造)を内包しており、公平でないとの見方もある。また、一度大きな累積ドローダウンを出してHWMから沈んでしまい、それを回復するのが困難な状況になると、運用者のモチベーションを阻喪する可能性がある。

 

優秀な人材の流出を招いたり、極端な場合には投資家に負担を強いる形でファンドを清算したうえで、フラットなHWMから新ファンドを立ち上げなおすこともあるので、留意する必要がある。

 

運用会社の経営という観点からみると、成功報酬にはもうひとつ隠れた意義がある。

 

伝統的運用会社が成長するためには、管理報酬増大をもたらす運用資産拡大を目指すことになる。日本の運用業界を例にとるまでもなく、運用パフォーマンスよりも運用規模の拡大(ファンド・レイジング)が志向される傾向がある。“いかにリターンを上げるか”よりも“いかに資金を集めるか”というセル・サイドの観点が重視されがちだ。

 

一方、成功報酬の営業が大きいヘッジファンドの場合、成功報酬の原資となるリターンを持続的に計上するには、運用規模を適切に管理する必要がある。運用キャパシティを超えるとプラス・リターンを上げにくくなるばかりか、大きなドローダウンを喫するリスクもあるため、運用者は自らの戦略に適した相応の運用規模を強く意識するようになる。

 

運用パフォーマンスを維持し、投資家の資本を守るためのビルトイン・スタビライザーが成功報酬という仕組みなのである。

 

山内 英貴

株式会社GCIアセット・マネジメント 代表取締役CEO

 

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山内 英貴

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