「ヘッジファンド」とは、様々な運用手法を駆使して相場の下落局面でもプラスの収益を目指すファンドです。投資するにはいくつかコストがかかり、運用益が出た場合に支払う成果報酬も広い意味でのコストになります。今回は、ヘッジファンドを購入する際の判断材料にもなる「ヘッジファンド・マネジャーの報酬体系」について解説します。※本連載は、GCIアセット・マネジメント代表取締役CEOの山内英貴氏の著書『オルタナティブ投資入門―ヘッジファンドのすべて』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「ハイ・ウォーター・マーク方式」は全体の75%が採用

成功報酬を計算する際、何をもって成功と定義するのかは重要な論点だ。投資家が期待する目的やヘッジファンドの運用スタイルも異なるから、事前に決めておく必要がある。

 

ハイ・ウォーター・マーク方式とは、ファンドのNAVが過去のピークを上回った部分についてのみ、成果として認識し、成功報酬を払う方式だ。逆にいえば、100のNAVで資金を預かったファンド・マネジャーが初年度で損失を出し、NAVは90に減少したとしよう。とすれば、2年目に利益を上げたとしても、100を超えた部分にのみ、初めて成功報酬が課されることになる。

 

 

この方式は、ヘッジファンド業界で広く支持され、全体の75%以上で採用されているとの統計もある。ヘッジファンド・マネジャーにとって、成功報酬がリスク・テイクのインセンティブである以上、制約がない場合、より大きなリスクをとって大きなリターンを上げようとするインセンティブが働きやすい。

 

たとえば、NAV100で預かった資金に対して、3ヵ月ごとに成功報酬が支払われるとしよう。3期連続で10%の損失が出続けてNAVが72.9になったとしても、同じ運用を続けて4期目に30%の利益を上げてNAVが94.77になると、マネジャーは利益の20%相当の4.374を受け取ってしまうことになる。

 

わかりやすく言えば、投資家としては、当初預けた資産の元本を大きく割り込んでいるにもかかわらず、多額の成功報酬を支払うことになってしまう。

 

そこで、このような問題を避けて、投資家とマネジャーの利害関係が矛盾しないように、投資家が獲得した利益をシェアする場合に限り、20%という魅力的な配分を行う方法がハイ・ウォーター・マークである。

「ハードル・レート方式」は特定の指標が基準となる

なかには、投資元本を上回っただけでは満足しない投資家も存在する。そこで、ある一定の期待レートを客観的に定義し、それを上回った部分に対して成功報酬を支払うとするのがハードル・レート方式である。

 

ハードル・レートは、その設定が難しい。その多くは、マネジャーがベンチマークとして意識しているものを利用しており、たとえば、3ヵ月LIBORや政府短期証券のクーポン等、無リスク金利を使う場合が多い。

 

逆に、ケースとしては多くないが、年4%など絶対金利をハードルとして設定する例もある。たとえば特定投資家の専用ファンドとして組成する場合には、マネジャーと投資家の協議によって、取り決めることが可能である。

 

ハードル・レートを導入しているのは、ヘッジファンド全体で10%程度とみられるが、ハイ・ウォーター・マークとともに、ヘッジファンド業界固有の概念であるために、理解しておく必要がある。

 

 

マネジャーは、自らの運用戦略に照らして適当かつインセンティブを極大化できる手法を導入すべきである。さらに、マネジャー側の努力だけではなく、投資家もマネジャーの能力を最大限に発揮し、期待に応えてもらうために効果的な仕組みとして成功報酬を理解するべきである。

 

また、トラックレコードをチェックする場合、成功報酬を含めたコストを控除してあるのか、あるいは控除していないかにより、投資家にとってのネット・パフォーマンスは大きな違いがある。

 

実際に計算をしてみると、1%〜20%の報酬で、年10%の利益を上げた場合、マネジャーの受け取る報酬は年2.8%、投資家の受け取るネット・リターンは7.2%となる。ファンドのマーケティング資料等に掲載してある実績が、こうしたコストを控除してあるのかどうか、十分確認する必要がある。

 

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オルタナティブ投資入門―ヘッジファンドのすべて

オルタナティブ投資入門―ヘッジファンドのすべて

山内 英貴

東洋経済新報社

リーマンショック後も拡大し続ける最強の金融技術と投資戦略のなか、ヘッジファンドを中心としたオルタナティブ投資をめぐる環境は激変。 投資の基本から最新の知識、最先端の投資テクニックまでを解説した、役に立つ一冊!

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