80年代、PC未経験の社員に「1台120万円のPC」を買ったワケ

140年以上も続く超長寿企業「鍋清」。1877年に創業し、第二次世界大戦を経てゼロからの再出発を遂げるも、その後もバブル崩壊や震災などの多くの困難が待ち受けていた。なかでも戦後最大の危機となったのは1985年の「プラザ合意」。強烈な円高により、鍋清は赤字に転落することとなった。円高が当然の時代で生き残るには、どうすればよいのか。現社長の筆者が当時の経営改革を振り返る。

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80年代、経営改革のため「1台120万円のPC」を購入

鍋清に改革が必要だと思ったとき、「全員経営」が解決策になると直感した。トップだけでなく現場社員も経営者マインドをもつ。


そのような組織に変わることで、それぞれが自分の持ち場や担当業務について自分で考え、自ら行動できるようになる。強く優秀な個人が増え、その集合体として会社が存在することで、会社そのものも強くなるのである。

 

経営改革を実現するための柱となったのは、社員に経営者マインドが身につく「マネジメントゲーム」の導入と、リコーの「マイツール」という経営分析プログラムの導入だ。「マイツール」は現在もリコーが知的所有権をもっているが、フリーソフトで自由に使うことができる。

 

きっかけは、初めてマネジメントゲームを知った勉強会だった。

 

「経営分析は、IBMや富士通など大手のオフコンではなく、リコーのマイツールでなければならない」

 

そう言ったのは、勉強会の講師で、マネジメントゲームの開発者である西先生だった。

 

(今、重要なことをサラッと言ったなあ)

 

私はそう感じ、マイツールに興味をもった。当時の鍋清はオフコンを導入していたが、なかなかうまく使いこなせなかった。あとで気づくのだが、使いこなせない原因の一つは、経理と経営の連動性が弱かったためだ。

 

マイツールは、西先生の定義によれば「ワープロ感覚のデータベース言語」である。これを使うことで、社員の誰もが仕入価格、粗利益、販売価格などを把握できる。

 

マイツールの開発は1970年代後半に始まった。望月宏さん(当時、日本銀行)が開発を始め、翌年、千葉県館山市の長谷川郁祐さん(当時、三和仏商社長)が開発に合流し、1980(昭和55)年にソードから「PIPS」という名称で発売されたソフトが原型だった。その後、長谷川さんたちがリコーに働き掛け、1984(昭和59)年により使いやすい形で「マイツール」として発売された。

 

エクセルに似ているが、西先生の定義にもあるように、マイツールの基本は表ではなく、1行1データの集合だ。200近いコマンドがあり、ソート、サーチやクロス集計が簡単にできるだけでなく、マクロプログラミングもしやすいという特徴がある。また、オフコンは専門家がプログラミングしたプログラムを使うしかない。

 

一方、マイツールはあらかじめコマンドが設定されているが、それらをどう使うかはユーザーが決める仕様だ。どのデータを、どのように集計し、加工するかといった自分たちの目的に合わせて、使うことができるのである。

 

鍋清にとって重要だったのは、売上集計、決算、在庫管理、資金繰り、給与計算などのデータだった。

 

ハードは、リコーから「SP200」というパソコン(日立製)が出ていたが、1986(昭和61)年には専用機として「Mr.マイツール」が発売された。これが高かった。ソフト(マイツール)とセットで1台120万円くらいした。今でこそPCやタブレットが当たり前に普及しているが、当時はまだフロッピーディスクにデータを記録する時代である。

 

しかし、そのような状況にありながら、鍋清は1985年に1号機を導入し、そこからの3年間で40台ほど購入した。今でいうIT投資である。提案者は私だったが、経営陣はよくそれだけの投資を許可したと思う。

 

大企業ならともかく、社員50人ほどの小さな専門商社がデータを活用した経営にシフトするのは画期的なことだったし、この思い切った経営判断を経て、社員がコンピュータとデータを使いこなせるようになっていたことが、のちの会社の発展につながっていくことになるのだ。

操作方法に苦戦しつつも、データ分析に没頭

マイツールの1号機は3階の営業部の隅に設置した。

 

そのときはまだオフコンが主流だったため、事務担当者が売上データをオフコンに入力していた。そのデータをマイツールに移すために、データを出力し、営業担当一人ひとりが自分の売上データをマイツールに再入力した。

 

また、当時のオフコンには仕入単価のデータが入っていなかったため、それも計算して追加でデータを入力していた。これらのデータをもとに、マイツールで粗利などを分析していた。作業の流れを見ると、決して効率的とはいえない。

 

もっとうまく使いこなす方法はあったと思う。ただ、コンピュータに触った経験すらなかった私にとっては、このような入力作業が練習になり、勉強になった。

 

マイツールを使って業務そのものがスピードアップし、効率化するのは、もう少し経ってからのことだった。

 

「営業のデータを加工してみたい」

 

その欲求に突き動かされるようにして、日々、遅くまでマイツールに向き合い、操作マニュアルとデータと格闘した。私は不精なので、「もっと楽なやり方ないのかい」なんて感じで毎日気がつくと夜の11時、時には午前様のときもあった。

 

一方で、1台しかないのは悪だと思うようにもなった。

 

入力する営業担当者が増えていくにつれて、順番待ちになる機会が増えていったからだ。その後、3台に増えると、少し状況が良くなった。間もなくして子会社の光清にもマイツールが導入された。マイツールの仲間もできた。常務、部長、課長とよく顔を合わせるようになり、会えばいつもデータの話になった。

 

この頃が本当のスタートだったと思う。データ分析は、思わぬ発見がある楽しい業務だったが、孤独でもあった。だからこそ、仲間ができたのは嬉しかった。私以外の面々も、マイツールの分析に没頭し「気がついたら11時」になるタイプだった。

 

常務から「ちょっと来て」と電話を受け、分析を手伝っているうちに、二人で「おお、もう11時か」となる夜もしょっちゅうだった。

 

もし一人だったら挫折していただろうと思う。お互い刺激し合い、励まし合いながら、データ分析に取り組んだ。マイツールを囲み「ああでもない、こうでもない」と議論したことが勉強になった。

社内イベントで「使い慣れないIT機器」を全社員に普及

経営分析プログラム「マイツール」は営業担当者のみならず、社員全員が使えるようになるのが望ましい。そう考えてマイツールに触れる機会をなるべく増やした。トレーニングと実践を兼ねて、会議などでも積極的にマイツールを使った。

 

ただ、今も昔もあまり変わらないと思うのだが、IT機器はすぐに慣れる人となかなか慣れない人に分かれる。

 

当時も、若い営業担当者などはすぐに仕組みを理解し、活用し始めたが、一方にはとっつきづらさを感じたり「手書きのほうが良かった」と感じたりする人もいた。

 

「マイツールを全社的に、部署や個人の偏りなく普及させる案はないだろうか」

 

幹部からそのような相談を受けて、私は「OA祭り」という年2回の社内発表会を考案した。

 

「どんな祭りなんだ?」

 

幹部が聞く。

 

「マイツールを使って、どんな課題を発見したか、どんな手を打ったか、どんな改善ができたかを発表する会です」

 

「なるほど。発表の場があれば動機付けになるな」

 

「はい。全社員参加で、各拠点から5、6人くらいが代表となり、発表してもらいます。もちろん、賞も付けます」

 

「面白そうだ。さっそく始めよう」

 

許可をもらい、私はすぐに準備に取り掛かった。

 

OA祭りは、結局5年くらい続き、全社員がマイツールを操作できるようになった。マイツールのような全社共通のシステムは、全員が使えるようにならなければならない。そのための手段として、OA祭りのような全員参加のイベントは大きな効果を発揮した。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

部門間のコミュニケーション活性化にも役立つ発表会

「OA祭り」には、部署内の協力体制を強化したり、コミュニケーションを良くしたりするという狙いもあった。

 

忙しくなると顔を合わせる機会が減る。誰が、どこで、どんなことを考えながら仕事をしているか分かりづらくなる。年に2度でも協業する機会があれば、お互いの距離は縮まりやすくなる。

 

当時の鍋清は商社型事業で、ものづくりはしていなかった。だからこそ、一緒に何かを作り、共通の目標を持って取り組める何かを提供したかった。その「何か」が、マイツールを使う発表というわけだった。

第1回目OA祭りは「全員経営への転換」を示す象徴

「第1回OA祭り」は、1988(昭和63)年8月27日(土)の午前10時に開催した。

 

「皆さん、どんなことを発表するのでしょうね」

 

幹部とそう話しながら、ワクワクして発表を待っていた。印象に残っている発表がいくつかある。

 

一つは、大阪のある社員の発表だ。

 

「1200万円の在庫を回転する在庫にして、大阪の売上総利益を増やしたい。ただ、所長には悪いが、現状はこうだ」

 

そう言ってデータを見せる。現場の意見が経営に伝わっている。データを見せることにより、客観的かつ説得力ある意見になっている。そう感じて、私はマイツールを導入した成果をはっきりと実感した。

 

本社の業務部門の社員は「オーダー番号ソートによる検収チェックの単純化」を考え、発表した。これは全拠点で応用できるシンプルな施策だった。アイデアを共有できるのもOA祭りの良いところだ。

 

横浜の社員の「M(粗利)率とMQ(売上総利益)と回収で見た誤解」(※)は一人ですべてをこなしているからこそ発表できる内容だし、経営の視点を見事にとらえていた。

 

本社の管理部門の社員は「配達件数とPQ(売上高)の関係」と「ガソリンの軽油化によるF(固定費)ダウン」など管理課ならではの視点でデータをまとめ、見せてくれた。

 

本社の営業社員の「お客様のP(平均単価)、V(原価)管理」も興味深い報告だったし、同じく本社の営業社員の「FAXのリース管理」も面白かった。

 

ほかにもすばらしい発表がいくつもあった。すべて書き出すことはできないが、その日の感想を一言でいうと「発表者の努力に頭が下がった」である。

 

鍋清の各拠点や光清の社員が集まり、あの日、会場には鍋清グループ全体の90%の社員が集まった。これだけの人が1ヵ所に集まるのは創業以来初めてのことだった。

 

そういう意味で、OA祭りは鍋清の歴史の1ページになったと思う。

 

多様な視点で、さまざまな発表が行われたという点から見ても、この1日は、創業者家族が牽引する家族型経営から社員が全員参加、全員経営で進んでいく会社に変わったことを表す象徴的な1日だったと思う。

 

※「企業方程式」は、考案開発された西順一郎先生の会社、株式会社西研究所の登録商標であり、P、V、M、Q、PQ、VQ、MQ、F、Gは西順一郎先生の著作物です。
 

 

加藤 清春

鍋清株式会社 代表取締役社長

 

 

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鍋清株式会社 代表取締役社長 

1956年1月1日、愛知県生まれ。1978年、大学卒業と同時にベアリング専門商社である鍋清が新たに設立した子会社の光清商事に入社。小径ベアリングの営業(主に新規開拓)に携わる。1983年、鍋清へ転籍。1985年ごろからMG(マネジメントゲーム)とマイツールの導入を進め、いち早く戦略思考とデータ分析手法を全社に浸透、定着させる。営業本部長等を経て、1999年に社長就任。2001年からアルミ製の安全カバー、安全柵の製作に取り組み、新たな事業の柱とする。2020年8月、新社屋が完成。

著者紹介

連載孤高の挑戦者たち~明治10年創業、ベアリング商社が大切にする経営の流儀

本連載は加藤清春氏の著書『孤高の挑戦者たち』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

孤高の挑戦者たち 明治10年創業、ベアリング商社が大切にする経営の流儀

孤高の挑戦者たち 明治10年創業、ベアリング商社が大切にする経営の流儀

加藤 清春

幻冬舎メディアコンサルティング

コロナ過で加速する「大廃業時代」。 経営者には早急な改革と決断が求められる―。 第二次世界大戦、バブル崩壊、東日本大震災…。 あらゆる困難を乗り越えた老舗専門商社の経営者が語る、ゆるぎない理念と経営戦略とは…

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