パテック フィリップやウブロ、オーデマ ピゲ…なぜ、これらは人気の高級腕時計なのか? 時計選びには「教養」が大切だ。デザインやブランドだけに捕らわれていては、自分自身にふさわしい逸品を見つけることは難しい。そこで今回は、教養の入り口として「愛好家もひれ伏す時計ブランド」を紹介するとともに、人気のワケを解説しよう。※本連載は、篠田哲生氏の著書『教養としての腕時計選び』(光文社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

どのブランド?スーツや靴以上に目につく「腕時計」

どんな腕時計を選んだとしても、他人から四の五の言われる筋合いはない。しかし腕時計の場合はスーツや靴と違って、ダイヤルにブランドのロゴマークが入っているので、どうしても「どこの腕時計か?」は気になってしまう。

 

特に電車のつり革や飲食店のカウンターといった腕時計が見えやすい状況になると、つい他人の腕時計をチェックしてしまうし、逆に自分の腕時計もチェックされている。

 

だからこそ、多くを語らずとも時計愛好家から「おおっ」と思われる“雲上の名門ブランド”を知りたいと思うのは当然のことだ。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

スイス時計の歴史・文化を代表「パテック フィリップ」

現在の時計業界で特別な地位を築いているのは、「パテック フィリップ」である。1839年に創業した同社は、1851年のロンドン万博にて英国女王ビクトリアに称賛された。しかも女王は自分自身と夫のアルバート公のために2つの時計を購入したという。こういった経緯もあって、パテック フィリップの時計は、多くの王侯貴族から愛される存在となった。

 

20世紀初頭にはアメリカの大富豪であるジェームス・ウォード・パッカードとヘンリー・グレーブス・ジュニアが競い合うように複雑なポケットウォッチを注文したという逸話(いつわ)も面白い。

 

しかもパテック フィリップは、1932年にスターン家が経営権を取得して以降、一貫して家族経営を守り続けている。そのため歴史と文化が完璧に継承されているのだ。

 

ジュネーブ市内には素晴らしい時計博物館「パテック フィリップ ミュージアム」も開設。ここではスイスの時計作りの歴史に触れることができる。単に製品の良さだけでなく、時計文化の庇護者(ひごしゃ)としての一面を持っている点も、このブランドが高く評価される理由だ。

職人魂で尊敬の的「ヴァシュロン・コンスタンタン」

時計産業の中心地ジュネーブの名門といえば、「ヴァシュロン・コンスタンタン」ということになるだろう。創業は1755年。ジュネーブ生まれの時計師ジャン=マルク・ヴァシュロンの立ち上げた工房が発展する形で、どんどん規模を拡大していった。

 

しかし同社は屋根裏部屋を時計工房とした、いにしえの時計職人“キャビノティエ”の精神を忘れることはなく、ジュネーブ時計産業の継承者として、素晴らしい時計を作っている。

 

近年は愛好家からの注文を受け、世界に1つしかないユニークピースを制作する「レ・キャビノティエ」が発足。創業260周年の節目にコレクターからオーダーされた「リファレンス57260」という懐中時計は、なんと57の機構が詰め込まれている世界で最も複雑な機械式時計。時計職人の誇りと技術を丁寧に守っているからこそ、尊敬の念を集めるのだ。

技術者を続々輩出…時計業界の功績者「オーデマ ピゲ」

ジュネーブから離れた山村にも、名門は存在している。「オーデマ ピゲ」は1875年の創業。多くの時計ブランドが誕生したウォッチバレーことジュウ渓谷のル・ブラッシュという小さな村から始まった。

 

オーデマ ピゲの特異点は、創業家ファミリーが今でも経営に参画していること。CEOはビジネスセンスに長けた人物を招聘しつつ、時計作りの文化や伝統を守るという大切な役割は創業家ファミリーが担っている。

 

そのうえでの革新性がオーデマ ピゲの強みだ。1892年に世界初のミニッツリピーターウォッチ(懐中時計にストラップを取り付けた)を発表し、1972年には現代までトレンドを牽引するラグジュアリースポーツウォッチ「ロイヤル オーク」が発売。そして1986年には世界初の超薄型トゥールビヨンウォッチも発表している。

 

さらにこういった優れた時計技術を進化させるために、超複雑時計工房も開設。ここからは綺羅星のごときスター時計師が巣立っていき、現在の時計業界を技術面で支えている。この革新の歴史こそが、オーデマ ピゲの凄さなのだ。

時計の歴史そのもの…フランス王家も愛した「ブレゲ」

かつての時計大国であったフランスにルーツを持つ時計ブランドも忘れてはいけない。「ブレゲ」は、スイス出身の天才時計師アブラアン=ルイ・ブレゲが1775年にパリで開いた時計工房がベースとなっている。

 

1780年に自動巻き機構のペルペチュアル、1790年に耐震装置のパラシュート、1801年には高精度機構のトゥールビヨンを開発するなど、現在へとつながる様々な機構を開発することで時計技術レベルを一気に進化させた。

 

フランス王家とのつながりも深く、悲劇の王妃マリー・アントワネットの依頼から作られた「No.160」は彼女の死後に完成した。この時計界屈指の至宝は、1983年にイスラエルの博物館から盗み出されたが、2007年に本物が発見され大きなニュースとなった。

 

時計ブランドとしての「ブレゲ」はブレゲ家の末裔によって代々受け継がれたが、現在はスウォッチグループの傘下となっている。しかしもちろん初代ブレゲが生み出した機構やデザイン、仕上げなどは継承されている。ブレゲを手に入れるということは、時計の歴史を手に入れることに等しいのだ。

比類なき手仕事へのこだわり「A・ランゲ&ゾーネ」

最後はドイツの「A・ランゲ&ゾーネ」を挙げたい。艱難辛苦(かんなんしんく)を歩んできた同社は、その歴史的な深みだけではなく、製品も魅力的だ。

 

A・ランゲ&ゾーネほど手仕事にこだわるブランドはないだろう。パーツを手仕事で綺麗に磨き、ムーブメントは必ず1回組んで調整を行い、バラして仕上げを行い、再度組み立てるという「二度組み」を行う。

 

1シリーズに対して専用ムーブメントを開発するため、スモールセコンドやカレンダーの位置、針の長さなどが、完全に調和するというのも他には見られないこだわりだ。ムーブメント素材にはジャーマンシルバー(洋銀)が用いられるため、使っていくうちに色が濃くなっていくという変化も楽しい。

 

上記のフランス語圏4ブランドに比べると実直な雰囲気があるが、そこも含めてジャーマンウォッチの味わいとなっている。

 

これ以外にもたくさんの名門があるが、とりあえずこの5つの雲上ブランドであれば、どんな時計愛好家であっても一目置いてもらえるだろう。

 

 

篠田 哲生

時計ジャーナリスト、嗜好品ライター

 

 

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教養としての腕時計選び

教養としての腕時計選び

篠田 哲生

光文社

そこかしこで時刻を確認することができる時代、人は何のために腕時計を身につけるのか? 今や時計はアートや音楽と同じように「教養」となった。 腕時計を成熟したビジネスパーソンの身だしなみ、あるいは「教養」として…

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