ビジネスウォッチも「個性」を楽しむ時代へ
画一的だの無個性だのと揶揄されてきたビジネスマンのスーツスタイルも、夏ならクールビズ、冬ならウォームビズというように、少しずつ着こなしの幅が出てきた。ジャケパンスタイルのビジネスマンも増えており、ビジネスウォッチの選択肢の幅も広がっている。
かつてのビジネスウォッチは、シンプルな三針モデルで、レザーストラップが好ましく、ケース素材は華美ではないステンレススティール製という“真面目な”時計が好まれた。
しかし腕時計がアクセサリー化し、ファッションの幅も広がった昨今は、まずはメタルブレスレットでもいいじゃないかという話になった。
そもそも、亜熱帯化しつつある日本の夏に、耐水性のないレザーストラップは不向きだ。そのためスイスブランドさえも、シンプルウォッチにメタルブレスレット仕様を加えるようになっている。
またダイヤルの色もかつてはブラックやホワイト、グレーが正統派だったが、メンズファッションのキーカラーの1つであるブルー(ネイビー)も、正統派の枠に入りつつある。
腕時計とTPO…マナーに厳しい英国王室さえ「自由」
ではファッション自体が大切なマナーとなるパーティや葬儀での腕時計TPOはどうなっているのか?
まずはブラック・タイ。すなわち夜の準礼服であるタキシードを着用するシーン。これまでであれば、タキシードに合わせる腕時計は、服の色とのバランスも考え、ホワイトダイヤル×プラチナ(もしくはホワイトゴールド)ケースで、ストラップはブラックという色合わせが正統だった。
そして忙しく動く秒針や実用的なカレンダーという要素を排除した時分針のみのエレガントな二針タイプが好まれた。機能をそぎ落とした腕時計を選ぶことで、「時間は気にしませんよ」とするのが粋だったのだ。
しかし実際のところはどうなのか? 最も格式にうるさそうな英国王室を参考にしてみよう。
いろいろな写真を見ると、ウィリアム王子はタキシードに普段から愛用しているSSケースのスポーツウォッチを合わせている。こういった階級の人々でさえも、もはやタキシードに二針時計を合わせるというのは時代遅れになっているようだ(ちなみに彼は正統なウイングカラーではなくレギュラーカラーのシャツにボウタイを合わせている)。
王室でさえ自由なのだから、ミュージシャンやファッション関係者はもっと自由である。グラミー賞やアカデミー賞などに集うセレブリティたちは、ここぞとばかりに個性的な手元を楽しむ。招待状にブラック・タイとあればタキシードを着ることは必須だが、腕時計に言及されることはない。むしろここで個性を楽しむのだ。
では個性を楽しむ場ではない葬儀ではどうだろうか? モナコ王室の王位継承第4位であるアンドレア・カシラギ(グレース・ケリーの孫)は、親族の葬儀の際にブラックスーツにブラックのネクタイ、ホワイトシャツという正統なファッションに身を包んでいた、しかし時計はスポーティなリシャール・ミルだった。
もちろんこれはファッションセレブリティとしても著名な彼らしいこだわりのスタイルなのかもしれないが、英国王室のキャサリン妃(ウィリアム王子の妻)も、葬儀の際に可憐なカルティエの腕時計をつけていた。
もちろん華やかなイエローやレッドのゴールド素材でもなく、ダイヤモンドなどの宝石は使っていないシンプルなものだったが、そういった最低限のマナーさえ守っていれば問題なしとされているのだろう。形式にうるさいはずの王室関係者であってもこれなら、もはや冠婚葬祭に合わせて、特別な時計を用意するというのは時代遅れなのかもしれない。
お洒落もマナーも結局「サイズ感」がすべて
では腕時計にTPOは存在しないのか? 最低限、気を付けるべきは「ケースのサイズ感」である。ビジネスシーンであれパーティシーンであれ、腕時計はシャツの袖と大きく関わってくる。ケースが厚すぎるとシャツの袖に引っかかってしまい不格好。上品に収めるなら、ケース厚は厚くても12~13mm程度を目指したい。
となると必然的に大半のクロノグラフやダイバーズウォッチは除外されることになる。どうしても武骨なスポーツウォッチが好みなら、腕時計側の袖口のみ少し大きめにオーダーするか、あるいは袖周りがゆるいダブルカフスのシャツを選ぶといった工夫が必要になるだろう。
腕時計は身につけて使用するものであり、身体と密な関係性を持っている。どんな腕時計をつけても自由な時代だからこそ、サイズ感を重視してスマートにつけこなすのがお洒落なのである。
篠田 哲生
時計ジャーナリスト、嗜好品ライター
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