「子のいない夫婦」の相続は揉めがち
【ケース①夫婦間に子供がいない】
夫婦の間に子供がいない(両親もすでに他界している)と、配偶者だけではなく兄弟姉妹も相続人となるため、非常にトラブルになるケースが多いです。この場合、残された配偶者は、亡くなったご主人の兄弟姉妹全員から実印押印・印鑑証明書をもらわないと、土地の名義変更はおろか、預金の引出しすらできません(預貯金仮払い制度の利用を除く)。
兄弟姉妹が亡くなっている場合は、さらにその兄弟姉妹の子(甥・姪)全員から、実印押印と印鑑証明書をもらう必要があります。これは大変な労力を伴います。
なにより、今まで夫婦二人三脚で築き上げた財産を、夫の兄弟姉妹に分けないといけなくなるのは、不本意というものです。
一方、ご主人側の親族にとって、先代から受け継いできた土地・自社株式等の財産が、妻の親族にすべて相続されてしまうのは不本意、という場合もあります。それならそれで、ご主人の親族が承継すべき財産はその意向通りに承継できるよう、遺言書を作成すべきです。
このように、遺言書を作成しておくことによって多くの問題が解消されます。
また、夫婦間に子がない人は、その「兄弟姉妹には遺留分がない」という点からも、遺言書が重要です。
遺言書アリでも「内縁の配偶者」が相続できない事例
【ケース②:内縁関係(事実婚)である】
現在の日本では多様な夫婦の形があり、内縁関係であっても判例上多くの権利が認められてきていますが、相続においては、あくまで法律婚が重視されており、内縁関係の者には相続権を認めていません(※1)。
筆者が経験した案件で、内縁の夫が死亡し、その内縁の妻が「私のすべての財産を乙野花子ゆずる」とだけ書かれた自筆証書遺言を持ってきた、ということがありました【図表】。
結論からいうと、この遺言は「有効」ですが「使えない」遺言書となり、銀行口座の引出しや土地建物の名義変更(登記)は、一切手続きできませんでした。
この遺言書には「ゆずる」という不適切な書き方(※2)を含めて、さまざまな不備がありましたが、一応法律上の要件を満たしているため、「有効」な遺言書でした。しかし、その遺言書を書いた人物と、受け取る人物の「特定」ができなかったのです。
たとえば銀行の立場からすれば、「この遺言書を書いた甲野太郎と、口座名義人・甲野太郎が同一人物であるかわからない」し、「遺言書に書いてある乙野花子が、今まさに窓口で1億円を引き出そうとしている乙野花子と同一人物かわからない」ということです。不動産の名義変更(登記)でも、同じ理由で手続きできません。同姓同名の人物である可能性があるわけです。
このケースでは、ご主人と奥様の本籍・住所・氏名・生年月日まで書いていれば、問題なく手続きできたと考えられます(なお、仮に奥様が内縁関係ではなく、結婚していて戸籍上「妻」と明示されていれば、常識的に妻に相続させる意図であろうという解釈で、手続きできた可能性は高いと考えられます)。
※1 例外として、アパート等の賃借権については相続できます。
※2 相続人でない人に遺産を遺したい場合は、「遺贈する」と書くのが適切。また遺言執行者も指定しておくべきです。
坂本 将来
司法書士、行政書士
古谷 佑一
税理士
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