ITを活用して何ができるかを考えるのが役割
「公僕の中の公僕になる」─社会の知恵が仕事を作る
私は行政院に入閣するときに「公僕の中の公僕になる」と宣言しました。公益に資することが自らの仕事だと思っていますから、私自身が「何かを変えたい」というようなものは、とくにありません。私は完全に社会の知恵に頼り切っています。市民の知恵こそが最も大切なのです。社会が望むことを実現していくためにITを活用して何ができるかを考えるのが、私の役割だと思っています。
好例を一つ挙げてみましょう。台湾で、政府のエイズ政策について請願の署名が、5000人を超えて成立しました。請願内容は「U=U(Undetectable=Untransmittable)の啓蒙を政府は積極的に行うべきだ」というものです。この「U=U」は「効果的な抗HIV治療を受ければ性行為によって他の人にHIVが感染することはない」ことを表すメッセージです。
台湾ではエイズは決して珍しい病気ではなくなっています。ただ、定期的に薬を服用していれば、感染の危険性はありません。台湾の刑法には「性病を感染させたら……」などという古臭い規定はありませんが、エイズに関する条文はまだ存在します。そのため、残念ながら一般の人々のエイズに対する印象は、以前のままです。
こうしたある種の教育に関する責任は、教育部(日本でいえば文部科学省)だけにあるのではありません。行政面で関わる衛生福利部はその姿勢を改めなければならず、エイズに関する研究の有効性を証明する必要があります。あるいは、バイオメディカル研究の後方支援をする必要もありますが、これは科技部の仕事でしょう。
こうしてみると、これも一つの部会横断型の仕事になり、「国民のHIVウイルスに対する概念をいかにして転換させるか」という問題になるのです。この問題は国民自らが5000人の署名を集めて発起したもので、私が行おうと考えたわけではありません。
しかし、5000人分の署名が集まれば、そこで私はこの問題に取り組むことができます。私の仕事というのは、このようにして始まるわけです。「社会の知恵が私の仕事を作る」というのは、こういう意味です。