こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

ITを活用して何ができるかを考えるのが役割

「公僕の中の公僕になる」─社会の知恵が仕事を作る

 

私は行政院に入閣するときに「公僕の中の公僕になる」と宣言しました。公益に資することが自らの仕事だと思っていますから、私自身が「何かを変えたい」というようなものは、とくにありません。私は完全に社会の知恵に頼り切っています。市民の知恵こそが最も大切なのです。社会が望むことを実現していくためにITを活用して何ができるかを考えるのが、私の役割だと思っています。

 

好例を一つ挙げてみましょう。台湾で、政府のエイズ政策について請願の署名が、5000人を超えて成立しました。請願内容は「U=U(Undetectable=Untransmittable)の啓蒙を政府は積極的に行うべきだ」というものです。この「U=U」は「効果的な抗HIV治療を受ければ性行為によって他の人にHIVが感染することはない」ことを表すメッセージです。

 

オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

台湾ではエイズは決して珍しい病気ではなくなっています。ただ、定期的に薬を服用していれば、感染の危険性はありません。台湾の刑法には「性病を感染させたら……」などという古臭い規定はありませんが、エイズに関する条文はまだ存在します。そのため、残念ながら一般の人々のエイズに対する印象は、以前のままです。

 

こうしたある種の教育に関する責任は、教育部(日本でいえば文部科学省)だけにあるのではありません。行政面で関わる衛生福利部はその姿勢を改めなければならず、エイズに関する研究の有効性を証明する必要があります。あるいは、バイオメディカル研究の後方支援をする必要もありますが、これは科技部の仕事でしょう。

 

こうしてみると、これも一つの部会横断型の仕事になり、「国民のHIVウイルスに対する概念をいかにして転換させるか」という問題になるのです。この問題は国民自らが5000人の署名を集めて発起したもので、私が行おうと考えたわけではありません。

 

しかし、5000人分の署名が集まれば、そこで私はこの問題に取り組むことができます。私の仕事というのは、このようにして始まるわけです。「社会の知恵が私の仕事を作る」というのは、こういう意味です。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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