訪問診療に躊躇がなかったのは、父の姿を見ていたから
在宅医をスタートさせたのはよいものの、自分の医院の外来と在宅診療、そして大学病院での外来の生活は簡単なものではありませんでした。
私の父は在宅医ではありませんでしたが、患者さんから来てほしいと頼まれると往診に出ていました。昔の開業医は往診も頻繁に行っており、患者さんの調子が悪くなったときには呼ばれて駆けつけます。なかにはご自宅で看取ることもあったようです。
そんな父の医師としての姿を見ていたので、私自身は患者さんの家を訪れて診療することになんの躊躇もなかったのは確かです。
父の時代の往診は、外来診療の延長上にあるものです。かかりつけ医として普段からその患者さんの状態を診ているため、彼や彼女の身体についてはよく分かっています。患者さんが医院を訪れ、診療してもらう。そして、ひどい腹痛や発熱などで外来に来られないようなときは医師が足を運ぶということです。つまり、基本は外来診療なのです。
ところが、在宅医のほうは、訪問診療が基本になります。月に数回、患者さんのご自宅を訪ねて、そこでの診療が中心となってきます。
在宅医はさまざまな患者さんの診療を行います。主に高齢者の方々が多いのですが、彼らの抱えている病を診たり、体調管理も行います。お年寄りが多いだけに看取りを担うことも少なくありません。それだけでなく、末期がんの患者さんの痛みを取り除くなどの緩和ケアも行います。これは、私が血液内科で担当していた患者さんに施していた治療の一つでもあります。
それに加え、私は在宅での輸血も行えるようにしました。輸血を行う在宅医というのは、当時は特にまれでしたし、いまでも多くありません。輸血も治療の選択肢に入れることで、在宅で治療できる病気の幅を大きく広げたのです。
このように私でなければできないような診療をやりたくて、外来だけでなく在宅医も始めたわけです。
根底にあるのはやはり父の姿でした。私が医師を目指したきっかけとなったのは父の診療を子どものころから見ていて、その姿に憧れたからです。
また、父がこれまで診てきた患者さんのその後も考えていました。父が医師を辞めたことで、患者さんたちはまた別の病院に行かざるを得ない状況になってしまいます。新しい病院で初対面の医師に診てもらうとなると、また一から症状やこれまでの経緯を説明しなければなりませんし、信頼関係もゼロからのスタートです。
私も父の様子を見てきて分かりますが、やはり患者さんにとって信頼できる医師でなければ緊張もしますし、壁を感じてしまうものです。まったく同じ医師とまではいきませんが、息子であるということで、少しでも安心感を与えられるなら、と思っていました。
だからこそ、たとえ両親の介護をしなくてはならないという余裕のない状況でも医師を辞めるという選択肢はなく、あえて大変になると分かっている在宅医の道を歩むことにしたのです。
佐野 徹明
医療法人さの内科医院院長
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