2024年4月から勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」上限規制が適用されるが、実現は困難ではないかとの指摘もある。実際、ハードな病院勤務に見切りをつけ、開業や起業に踏み切るケースが多いという。現在、連載中の「『医師の働き方改革』仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」を連載中の著者の佐藤文彦氏が医療機関が抱える問題点の対処方法を解説する。

医療崩壊回避はリーダーが若手の思いを拾い上げること

多くの医療従事者が、新型コロナウイルス感染症の最前線で懸命に働いてくれていたのは、ご存じの通りです。

 

自らの感染と隣り合わせのリスクの中で診療に当たっている医師たちは、若い世代が中心です。小さなお子さんのいる年代でもあり、「家族を感染させるわけにはいかない」と、自宅に帰らずに病院やビジネスホテルに寝泊まりするといったことも、現実に起こっていました。ニュースなどでその状況を目にした方もおられると思います。

 

これとは、別にコロナ禍は病院経営の逼迫という大きな問題を生みました。そこには、感染症の最前線で診療に当たっている若手医療者たちのボーナスカットといった金銭的な問題が取りざたされていたのです。

 

政府の給付金制度等もありますが、命がけで賢明に働いて、しかも平時以上に残業時間が多いにもかかわらず、普段の給与よりも少ない報酬しか得られなかったとしたら、彼ら、彼女らは本当にこれからもずっと最前線の臨床現場で働き続けてくれるのでしょうか。

 

「“生涯”中間管理職世代」となる50歳前後の世代の医師の多くが病院から去っていくだけでなく、現実には40代の医師もどんどん病院を辞め、新規に開業したり実家の医療機関の長に収まっています。

 

ここで、後を追うようにして20、30代の働き盛りの医師まで病院を去るようなことになれば、日本は取り返しのつかないほど大きな医療崩壊へ突入していってしまいます。

 

すでに大量の医療職退職騒動もマスコミで報道されていますが、こういった問題の最も有効な解決策は、50歳代以上の病院経営層や管理職が若手の医師・看護師達の思いをしっかりと拾い上げ、彼らが働きやすい環境を丹念に提供し続けることであると、私は信じています。

”ハード“な病院勤務に見切り、30代に広がる独立願望

実は医療現場は、コロナ禍の前から空前の人手不足で、すでに医師の争奪戦は始まっていました。

 

この背景にあるのは、”ハード“な病院勤務に見切りをつけ、開業する医師の増加です。私が独立したのは40代でしたが、従来開業に踏み切るのは、40歳前後だったように思います。しかし、近年は、30代前半以下の若い医師までも続々と開業したり、中には起業したりもしています。

 

馬車馬のように働いてきた我々40~50代と異なり、20代~30代前半のゆとり世代を中心にした若年層は、単純な「上意下達」には納得してくれません。

 

「目的をきちんと説明を受け、納得したことを丁寧にこなす」ことはしますが、「上司が言ったことを二つ返事で引き受けられない」世代は、理不尽なことは受け入れられないので、「上意下達」の職場環境では働いてくれません。

 

だったら、「自分の思う通りにやってみたい」と開業や起業に踏み切るのです。

 

そんな思いをもつ医師が増えていくなかで、新型コロナウイルス感染症の嵐が吹き荒れました。感染リスクが高いなかで働き続きたにも関わらずボーナスカットでは、今まで以上に、若手医師の開業意欲・起業意欲に拍車がかかるのは、無理からぬことなのです。

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地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

佐藤 文彦

中央経済社

すべての病院で、「医師の働き方改革」は可能だという。 著者の医師は「医師の働き方改革」を「コーチング」というコミュニケーションの手法を用いながら、部下の医師と一緒に何度もディスカッションを行い、いろいろな施策を…

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