毎年行われる税制改正。ときに相続税や贈与税の仕組みが大きく変わり、それまでの相続税対策が意味のないものになることがあります。今回は、相続税申告を数百件経験した相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の天満亮税理士に、税制改正によって相続税対策が無駄になってしまった事例を紹介します。

事例:贈与税も相続税もかからないと思っていたが…

生前対策はバッチリだと思っていたが…(※画像はイメージです/PIXTA)
生前対策はバッチリだと思っていたが…(※画像はイメージです/PIXTA)

 

父(Aさん)と子(Bさん)で長年暮らしていて、Aさんが亡くなられてしまいました。縁があって、相続税申告業務を担当することになりました。

 

相続税申告に向けて打ち合わせをする際に、過去の相続時精算課税贈与の有無について、Bさんに確認しました。

 

「確か10年以上前にしたと思うけど、当時相談していた税理士さんから、『贈与税も相続税もかからないから、ぜひこの制度を活用しましょう』と言われたよ?」とのことでした。

 

よくよくBさんに話を聞いてみますと、対策当時の税制では将来の相続税はかからない見込みで、相続時精算課税贈与で贈与すれば、贈与税も相続税もかからないということだったようです。

 

ところが、贈与を実行した後の平成27年以降の相続では大幅な税制改正がありました。相続税の非課税枠が「5000万円+1000万円×法定相続人数」から「3000万円+600万円×法定相続人数」に変わったのです。法定相続人が1人であれば、6000万円から3600万円に変わったことになります。

 

Aさんは、もともと6000万円弱の財産しかなかったので、1000万円を相続時精算課税贈与すれば、Bさんは贈与税も相続税もかからない見込みでした。6000万円弱というのは相続税の非課税枠(6000万円)以下ですし、1000万円というのは贈与税の非課税枠(2500万円)以下のためです。

 

しかし、実際には平成27年税制改正後にAさんは亡くなられたので、贈与したはずの1000万円も相続税の課税対象となり、Bさんは財産6000万円に対して相続税310万円を支払うことになりました。

 

結局、この1000万円部分については贈与税も相続税もかからないと思って対策したのに、実際にはこの1000万円部分は相続税として150万円相当(限界税率15%のため)が取られたことになります。

 仮に相続時精算課税贈与を選択しなかったら

相続税がかからないと思って「相続時精算課税贈与」を選択していましたが、仮に「暦年贈与」だったら、いくら税金を取られていたのでしょう。

 

たとえば合計1000万円を5年間に分けて200万円ずつ個別に暦年贈与していたら(※連年贈与の論点はあえて省略します)、まずは贈与税として45万円(=9万円×5年)がかかります。そして相続時には、5000万円(贈与済みの1000万円は直前3年内でもないので相続税の課税対象外)の財産に対して相続税として160万円がかかります。贈与税と相続税を合わせても、合計205万円にしかなりません。

 

前述の通り、相続時精算課税贈与を選択したことで、結果的に相続税は310万円かかってしまっていましたから、約100万円の税金を余分に(?)支払ったことになります。

税制改正により生前対策が対策でなくなる可能性

今回紹介したケースでは約100万円の税金の差(そもそも税制改正がなければ相続税は0円だったので、差は100万円ではなく310万円と言えなくもないですが……)でしたので、「それくらいの差であれば何てことない」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、生前対策の内容や税制改正の内容によっては、桁が1つも2つも違うような税額の影響を受けることもあります。

 

数年後の税制改正であれば、ある程度の見通しは立つかもしれませんが、たとえば10年以上先の税制改正となると、予測をするのは現実的ではないと思います。生前対策をする際には、「将来の税制改正によって、当初の目論見と異なってしまうかもしれない」、「何もしなかった方が結果的に税金は抑えられていたかもしれない」という認識をしておく必要がありそうです。

 

現金の贈与くらいであれば、対策の費用がさほどかかる訳ではないので良いのですが、たとえば不動産を動かしたり、法人を活用したり、といった対策は費用も相応にかかることがありますので、充分に効果とリスクを検討した上で実行する必要があると思います。

 

 

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