専門家に相談せずに、独断で相続対策をしてしまった結果、財産を残すどころか巨額の贈与税を請求されてしまう事例が後を絶ちません。そこで本記事では、北村税理士事務所代表の北村英寿氏が、実際に経験した相続トラブルを紹介します。

節税するなら「手間と時間」は惜しんではいけない

税理士の仕事は、相続税対策を提案するだけではありません。税務署に出向いて担当者と直接交渉する「行動力」やその交渉を成功させる「交渉力」も、欠かせないポイントです。折衝することで税額が変わりますし、不測の事態が起こったときにもそういった能力があれば、対応できるからです。

 

私が以前勤めていた税理士事務所では、市街地再開発関連の業務を行っていましたが、そこでも折衝は税額を決めるための大切な業務の1つでした。たとえば、あるとき再開発事業を請け負う会社が大きなビルを建てることになったので、事業所税を申告することになりました。

 

事業所税とは、一定規模以上の事業を行っている事業主に対して課される地方税で、事業所の床面積や、従業員数などに応じて課されます。床面積に対して課される場合は、フロアのうち課税対象となる部分、非課税となる部分を割り出して税額を計算し、申告します。

 

ビルのワンフロアにはエレベーターホールや廊下、給湯室などがありますが、非常通路など非課税となる部分もあるので、そのような減額要素を見落とさずに計算するのです。私は都税事務所へ何度も足を運び、担当者と何度も折衝を重ねました。担当者の前に設計図を広げ、「ここからここまでは非常通路と考えられますから、非課税でいいですね」と、一つひとつの減額要素について明確な根拠・理由を添え、できる限り税金が安くなるように交渉していったのです。

 

何もしなければワンフロアがまるまる課税対象になってしまいますが、エリアごとに検証し、交渉して、意見の相違を調整していく地道な努力を重ねることで、初めて税額を大幅に下げることができるのです。相続税対策にもそういう素養が必要で、減額できるかどうかについて税務署側と意見が違った場合、税務署の職員と直接折衝する必要があります。

 

私は以前勤めていた税理士事務所のおかげで、自然にそのようなことを学ぶことができましたが、学ぶ機会がない方にとっては難しいことかもしれません。相続案件に対応していく能力は、こういったところでも違いが表れるのです。

 

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