先週の米ドル/円は、一時105円台後半を記録しました。金曜日こそ、注目の米雇用統計発表後に反落しましたが、前日まで7営業日連続で米ドル高・円安が続いていたのです。FX開始直後から第一線で活動している、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は「米ドル/円の日足チャートの推移から読み解くと、『息継ぎ』が入った可能性が高い」と述べています。今回は吉田氏が、米ドル反発が急拡大した背景や、「米国株安」本格化の可能性について解説します。

「2/8~2/14のFX投資戦略」のポイント

[ポイント]​

・米ドル/円は先週にかけて一段高となった。半年以上超えられなかった「90日MA」を上回ったといったテクニカルな事情が大きかったのではないか。

・長く続いた小動きを上放れしたことで、目先的に米ドル高の余地を探る動きが続く可能性が高い。株高から株安へ転換、それが本格化するまでは、米ドル高が続く見込み。

 

しばらくの間は米ドル高が続くのか?(画像はイメージです/PIXTA)
しばらくの間は米ドル高が続くのか?(画像はイメージです/PIXTA)

「米ドル買い」が拡大した理由は…

出所:マネックストレーダーFX
[図表1]米ドル/円の日足チャートの推移(2021年1月~) 出所:マネックストレーダーFX

 

米ドル反発が急拡大したのは、昨年6月以降、半年以上も超えられなかった90日MA(移動平均線)を大きく上抜けてきたといったテクニカル要因が大きかったことが原因だと考えられます(図表2参照)。

 

 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表2]米ドル/円と90日MA(2021年4月~)
出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

米ドル/円は、90日MAを上限、それを2%下回った水準を下限としたレンジ内での上下動が続いてきましたが、そのレンジを上放れしたことで、テクニカルに見ても上昇余地が拡大した可能性が高いのです。

 

ではなぜ米ドル買いが強まってきたのでしょうか?

 

一番の理由は、米ドルが「売られ過ぎ」になっていたことです。昨年3月のコロナ・ショックが一段落した後、米ドル全面安が続いてきました。米ドル売りが長期化したことで、米ドルは「売られ過ぎ」懸念が強まっていたのです(図表3参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表3]CFTC統計の投機筋の米ドル・ポジション(2010年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

そして米ドル金利の上昇リスクが拡大している点も重要だといえます。米金利は、名目金利からインフレ率を引いた実質金利で見ると、代表的な米景気指標の一つであるISM製造業景況指数である程度説明することができます。この関係からすると、米実質長期金利は1%以上に拡大する可能性がありそうです(図表4参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表4]米実質長期金利とISM製造業景況指数(2010年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

実質金利は名目金利からインフレ率を引いたものなので、名目金利にするためには実質金利にインフレ率を足すことになります。この場合のインフレ率は、コアCPI上昇率を使っており、それは足元で1.6%程度なので、実質金利が1%以上ということは、名目の10年債利回りはそれにインフレ率1.6%を足すのでなんと2%を大きく上回る計算になるのです。

 

米ドルが「売られ過ぎ」となっているなかで、米ドル金利に大幅な上昇リスクがあるならば、米ドル買い戻しが広がることも頷けます。

「為替相場」と「金利差」の関係は、昨年大きくかい離

為替相場と金利差の関係は、昨年3月のコロナ・ショックにより大きくかい離しました。たとえばユーロ/米ドルは、金利差でまったく説明できないユーロ安・米ドル高となりました。ただそれは、昨年末にかけてほぼ是正されています。最近にかけてのユーロ安・米ドル高は、金利差ユーロ劣位・米ドル優位拡大と連動していることが確認できるでしょう。

 

ただ、金利差から見ると、米ドルは未だ割高です(図表5参照)。この割高修正に伴う米ドル安「続編リスク」が残っており、その鍵は株価の動きではないかと筆者は考えます。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表5]米ドル/円と日米金利差(2019年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

暗号資産で考える「株安」への転換リスク

昨年3月のコロナ・ショック後、米国株の株高トレンドが続いています。そのなかでも、NYダウが1割程度といった具合に比較的大きく下落した局面が6、9、10月に3回ありました。この3回では、米ドル/円も比較的大きく下落しています。その意味では、米国株が1割以上といった具合に大きく下落するようなら、米ドル/円下落「続編」の可能性が出てくるかもしれません。

 

では、株安が本格化する可能性はあるのでしょうか。年明けに一時暴落した暗号資産、ビットコイン(BTC)と関連付けて考えてみます。

 

BTCは昨年12月に約3年ぶりに最高値を更新、2万ドルの大台を突破するとあっという間に4万ドルも突破する大暴騰を演じました。ところがその後、一転して3万ドルまで暴落しています(図表6参照)。この大乱高下は、基本的には「上がり過ぎ」の反動だったのでしょう。

 

 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表6]ビットコイン/米ドルの推移(2017年~)出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

BTCの90日MAからのかい離率を見ると、今回はプラス100%以上に拡大していました。このかい離率がプラス50%以上に拡大したのは、2017年以降で今回が3回目です。そしてこの3回とも、プラス50%以上に拡大してから1ヵ月以内に、拡大がピークアウトし、その後暴落が起こっています。

 

以上のように見ると、この年末年始のBTC大乱高下は、「上がり過ぎ」とその反動といえます。

BTC乱高下のプライスパターンには類似性がある

ところで、この3回のうち、2017年の年末から翌年にかけて起こった乱高下は、「仮想通貨バブル崩壊」と呼ばれた動きでした。この値動きに、今回の値動きを重ねてみると、これまでのところよく似ていることがわかります(図表7参照)。

 

 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表7]BTC暴落の類似出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

また、3回のうちのもう一つ、2019年夏に起こった乱高下を、同じく仮想通貨バブル崩壊に重ねてみても、似ていることが分かります。

 

以上から、暗号資産、BTCの「上がり過ぎ」とその反動に伴う暴落のプライスパターンには類似性がある可能性があるといえるのです。この類似性がこの先も続くなら、BTCはまだ大幅な続落リスクが残っているといった見通しになります。

 

2017年、2019年など暗号資産暴落、BTCショックではその後に株安、そして円高が追随するところとなりました。その意味では、今回もBTCショックが広がっていくようなら、株安、円高再燃につながる可能性があるのです。

 

今回の株高はバブルなのかという議論が聞こえてきますが、過去のバブル(2000年のITバブルや2007年の信用バブルなど)と比べると、「金融政策」との関係に違いがあります。

 

ITバブル、信用バブルにおいては、FRBなどが利上げに転換した後も株高が続きました。金融当局が「利上げ」というブレーキを踏んでも止まらない株高は、ブレーキの壊れた車、まさにバブルだったといえます。これに対し、今回は金融緩和を続けているなかでの株高なので、その点は過去のバブルの株高とは違うのです。

 

ただ、過去のバブルにおいては、バブルが破裂すると、金融当局がすでに利上げを行っていたため、株暴落に歯止めをかけるべく金利を下げる余地がありました。これに対して今回は、株安が広がった場合、金利を下げるなどの政策余地がない点が気がかりだといえるでしょう。

 

 

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長

 

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

 

 

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