みなさんは「行動経済学」という学問分野をご存じでしょうか。経済学と心理学のコラボレーション的な学問なのですが、そこでは「人間の脳が引き起こす錯覚」等も研究されています。本記事では、そんな錯覚を応用して、人々の努力へのインセンティブを高める経済手法を見てみましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

確率1%で視力を失う病気、治療薬にいくら払う?

もし読者の皆さんが、「1%の確率で失明する危険な仕事がある。報酬を何円払えば引き受けるか?」と聞かれたら、何円と答えるでしょうか?

 

では、「あなたは確率1%で失明する病気を患っている。それを治療する薬があるが、何円なら買うか?」と聞かれたら、何円と答えますか?

 

質問の内容は本質的に同じです。つまり、「あなたの眼の価値は何円ですか」ということを尋ねています。しかし、前者の方に大きな金額を答えた方が多いのではないでしょうか。

 

この話は政治家も知っておくべきでしょうね。「公園を作ります」と公約した段階で、人々は公園のある街をイメージするでしょう。それが「やっぱり作りません」といわれると、大きな失望を招くことになるでしょうから。

 

もっとも「政治家が公約を守らないことには慣れているから、それほど失望しない」という可能性もありますが、それは別の意味で悲しいですね。

捨てられない、整頓できないのは「脳の錯覚」の影響!?

物を捨てられず、家の中が不用品で埋め尽くされている人も多いでしょう。本当に思い出のある品なら「捨てられない」という気持ちも理解できますが、「一度所有権を得たものだから、愛着が生まれて捨てられない」というのでは困ってしまいます。

 

断捨離の問題には、愛着の問題のほかにも、行動経済学的に見た「興味深い錯覚」が作用していると思われます。

 

合理的に考えるなら「この品物を捨てれば、いまより狭い家に住んでも同じ生活ができる。つまり〈この品物を所有しつづけることのコスト=広い家に住み続けなければいけないコスト〉である」ということであり、山のような品物を所有し続ける喜びと住居費用のコストを比較すべきだといえます。

 

品物を捨てないことを理由に広い家に住むコストを「機会費用」と呼びます。しかし、「この品物を捨てないとコストがかかる」といった発想をする人は多くないでしょう。これについては別の機会に詳述します。

 

もうひとつ、「この品物は買ったときに高い代金を支払った。だから、捨てるのは惜しい」と考えて捨てない人も多いでしょう。これも本当なら「買ったときに高かったとしても、使わないなら捨てるべき」ですね。捨てずに持っていても、捨ててしまっても、買ったときに支払った代金は戻らないのですから。

 

このように、払ってしまった代金について、考えるべきではないのに考えてしまう人は多いのです。このような代金のことは「サンクコスト」と呼びます。沈んでしまった代金、といった意味の単語ですね。サンクコストについても、別の機会に詳述します。

 

今回は以上です。自分の脳が錯覚していることを知ってショックを受けた読者のみなさんにひと言。錯覚は嬉しいことではありませんが、人類の進化の過程においては、錯覚したほうが有利だったからこそ、みんなが錯覚するようになったのでしょう。つまり、錯覚が多い人は進化した人なのだと考え、自分を納得させましょう(笑)。

 

このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

 

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