相手が嘘をついているか否かを見抜くのはとても難しいですが、同様に、自分が嘘をついていないと相手に信じてもらうのも、とても難しいといえます。しかし、この相互理解を進められないと、ビジネスにおいても人間関係においても、支障が起こりかねません。これらの課題解決のヒントとなるのが「情報の非対称性」への理解です。どういうことでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が、身近な例から平易に解説します。

「英語や簿記が得意」なことを、どうやって証明する?

「情報の非対称性」という言葉をご存じでしょうか。経済用語では、売り手と買い手の間、または企業と投資家などの間で保有する情報に格差があること、と説明されています。端的にいうならば「自分のことは自分がいちばんよく知っている」ということですが、問題となるのは、情報格差がある状態で「相手の嘘を見抜く」「自分のことを相手に知ってもらう」のが難しい、というところです。

 

なぜみなさんは英語検定や簿記検定等々を受けるのでしょうか? それは「自分は英語や簿記が得意である」ということを、就職試験のときに面接官にわかってもらうためですね。もし完璧なウソ発見器が開発されれば、面接官も学生の英語や簿記の実力を見抜けるでしょうが、それが現実となるまで検定は必要でしょう(笑)。

 

さて、学生や転職希望者が検定試験を受けるのと似たようなことを、社債を発行する企業も行っています。「格付の取得」という行為です。「わが社が社債をきちんと償還(借金を返済)できる会社かどうか、客観的に採点してほしい」というわけです。

 

これを上記の英語検定や簿記検定でたとえると、「格付会社」を「検定実施機関」に、「格付AAA、AA、A、B…」を「検定1級、2級、3級、4級…」に読み替えるイメージです。投資家は社債を買うときに格付を見て、買うか否かを判断します。面接官が検定結果を見て採用の判断をするのと似ていますね。

 

検定や格付は、「自分がプロに料金を支払って採点してもらい、その結果を無料で提供することで自分を信じてもらう」ためのものだ、というわけです。

値段が高くても「高級ブランドの商品」が買われるワケ

話は変わりますが、本物の宝石がほしいときは、露店商ではなく、一流の店から買いますね。一流の店は割高ですが、あえてそこで買うのは「一流の店なら嘘をつかない」と信じることができるからです。

 

一流の店は「嘘をつかない」と信頼されているため、高い値段でも客が買いに来ます。彼らだって、偽物や粗悪品を高い値段で売れば儲かるでしょうが、正直に商売をしているのは「嘘をつけば客の信用が失われてしまう」からです。

 

信用を失えば、高い値段を払ってまで客が買いに来なくなりますから、一時的には得をしても、長期的には損してしまいます。つまり客は「店が嘘つくことは、店の損になる」と理解しているため信用するわけです。「あの店主はいかにも正直者っぽい」などと思って信じているわけではないのです。

 

ブランド品についても同様です。「ブランド品を持っていると格好いい」ということもありますが、「品質に問題がない」という信頼感があるから、高い値段でも買う人がいるわけです。

 

もしもブランド品メーカーが粗悪品を売ったなら、一度は大儲けできるかもしれませんが、長い目でみれば信用を失うことで大きな損になるから、きっと粗悪品は売らないだろう、と考えていいわけです。

 

ちなみに、旅行先で地元の特産品を食べようとガイドブックを見る人がいますね。最近では、インターネットで店を検索すると、過去にそこで飲食した人の感想や評価が載っていることもあります。そういった情報は大変役に立ちます。なぜって店の広告には「安くて美味しい」と書いてあるに決まってますから(笑)。

 

とはいえ、インターネットの感想等には「偽物」もかなり混ざっているようです。店がアルバイトを雇って「最高!」「美味しかった!」などの感想を書かせているとか、いないとか。それらも踏まえたうえで、参考程度にするのがいいのでしょう。

 

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