「高齢者に届かないマスク」政策は即座に中止
官民の連携によって生まれたマスクマップ
対策会議の結果、台湾の国民皆保険制度を活用して、全民健康保険カードを使った実名販売を始めることにしました。ただし、あるコンビニで誰かがマスクを購入したら、その情報がリアルタイムで別の店舗にも共有される必要があります。「この人はもう購入しているので、これ以上は購入できません」という情報が伝わらなければ、また複数店舗で購入する人が出てきます。
そこで実名販売を実現するために、全民健康保険カードを使うだけでなく、クレジットカードや利用者登録式の「悠遊カード」(日本のSuicaのような非接触型ICカード)を使ったキャッシュレス決済を組み込むことにしました。この方法であれば、誰がマスクを購入したかを確実に把握することができます。
ところが、いざスタートしてみると、この方法でマスクを購入した人は全体の四割しかいないことがわかりました。つまり、現金や無記名式の「悠遊カード」を使い慣れていた高齢者には不便な方法だったのです。これは単にデジタルディバイド(情報格差)の問題ではありません。防疫政策の綻びです。マスクを購入できた人と購入できなかった人の割合が半々では、防疫の意味をなしません。
かといって、高齢者に使い慣れた現金や無記名式の悠遊カードを使うのをやめてもらい、「これからは記名制の『悠遊カード』を使いなさい」「キャッシュレス決済を学びなさい」と迫るのはナンセンスです。
そこで、この方法はとりあえず停止して、まずは全民健康保険カードを持って薬局に並んでマスクを購入してもらうことにしました。これなら高齢者には慣れたやり方ですし、彼らには並ぶ時間的な余裕もあります。また、家族の全民健康保険カードを預かって一緒に買ってあげることもできるので、自分が家族に貢献しているという感覚も持てたようです。
並んで購入することは高齢者にとって負担となりますし、コンビニでの購入と比べれば時間的コストもかかります。しかし、結果として70〜80%の人がマスクを購入することができ、台湾での防疫に大きな役割を果たしたのです。
その次に、今度は並んでマスクを購入する時間的余裕がない人のために、スマホを使ってコンビニでマスクを購入するシステムを設計しました。また、台北では自動販売機でマスクをキャッシュレス決済で購入できるようにしました。ただし、「誰がマスクを購入した」という情報は、中央健康保険署にリンクされるようにしました。また、中央健康保険署は台北市政府とリンクされ、さらに台北市政府内の衛生局や情報技術局ともリンクされて、情報共有が図られました。