こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「ロックダウンは良い効果を生まない」という教訓

SARSの経験を活かした台湾のコロナ感染拡大防止策

 

台湾は今年(2020年)、全世界に感染が広がった新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めにいち早く成功しました。これは蔡英文総統が語っているように、「医療専門家や政府、民間、社会全体の努力」が合わさった結果です。

 

台湾では、ウイルスの正体が明らかになる前から、水際での感染拡大防止に全力を傾けました。具体的には、1月20日にいち早く衛生福利部(日本でいえば厚生労働省)の下に「中央感染症指揮センター(Central Epidemic Command Center、略称CECC)」を設立し、各部会(日本でいえば省庁)が連携して防疫対策に臨む態勢を構築しました。

 

そして、1月21日に武漢から帰国した台湾人女性の感染が確認されると、翌日には武漢からの団体観光客の入国許可を取り消し、24日には中国本土からのすべての団体観光客の入国を禁止しました。同時にスマートフォンを活用して、感染経路の確認および感染者と接触した可能性のある人たちを割り出し、全員に警告メールを送りました。さらに、民間企業にマスクの増産を要請し、それをすべて政府が買い上げて、すべての人々に行き渡るような策を練りました。

 

オードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)
オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

こうした素早い対応で感染拡大を防いだ結果、台湾では他国で行われたようなロックダウン(都市封鎖)や学校の休校、飲食店の強制休業などを行う必要はありませんでした。ロックダウンは確かに封じ込めに効果を発揮しますが、経済面の代償を払わなくてはなりません。

 

「新型コロナウイルスの蔓延」という危機的な状況の中でも、社会そのものの繁栄に考えをめぐらせなければなりませんし、その一方で防疫対策も行わなくてはならないのです。「社会の繁栄」と「防疫対策」を両立させることに成功したのは、台湾に健全な民主主義体制が根づいている証拠だと思います。

 

台湾は日常生活を維持しながら防疫に成功し、その結果として、コロナの逆境下にあっても、GDPのプラス成長を実現しました。経済、民主主義、人権のどれをとっても、大きな損失は受けていません。そして、その後、「台湾は手助けできる(Taiwan Can Help)」というスローガンを掲げ、各国に大量のマスクと防護用品を送る医療外交に着手しました。こうした台湾の行動は、世界的にも注目を浴びました。

 

台湾が今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止に成功した理由の一つに、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験が挙げられます。台湾では、SARSによって、346人の感染者と73人の犠牲者を出しました。また、台北市内の病院が二週間にわたり封鎖されるという事態も起こりました。

 

そのとき、「ロックダウンは決して社会的に良い効果を生まない」という教訓を得る一方、「マスクの着用は、感染予防の効果が高い」という知見を得ることができました。ただ、当時は「感染防止のためには『N95』という外科用のマスクでなければ効果がない」と言われ、医療関係者など本当にN95が必要な人たちにマスクが行き渡らないという問題も起こりました。

 

当時の現場は、本当にカオス状態だったと思います。前述したCECCのような防疫対策の専門組織もなかったので、「中央政府と地方政府で言っていることが違う」とか、「誰に情報をもらえばよいのか」など、人々から不満の声が上がりました。SARSが収束したあと、政府はそうした課題を一つずつ検討して解決してきたのです。

 

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

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2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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