後継者がいない、将来、事業を維持できるか不安…。このような悩みを抱えている経営者が増えています。大切に育ててきた会社を承継する人が身内や社内にいない場合、選択肢として考えられるのがM&Aです。しかし、日本ではM&Aについてマイナスイメージをもつ人が多く、M&Aの本来の意義や内容が十分に浸透しているとはいえません。本連載では篠田康人氏の著書『まんがでわかる 実録!中小企業のM&A』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、M&A成功の秘訣を解説します。

M&Aの方法②:事業だけを売買する「事業譲渡」

株式を譲渡することで法人格そのものを譲渡するのではなく、株式の所有関係はそのままにして、事業だけを売買する方法です。

 

事業譲渡は、会社が複数の事業を展開していてその一部の事業を売却したいとき、いわゆる「事業の選択と集中」が目的となるケースで、よく用いられる方法です。事業の全部を譲渡する事業承継が目的のM&Aでも、事業譲渡の方法が使えないことはないですが、実際はあまり使われません。事業承継が目的の場合、株式譲渡によることが大半です。それは株式譲渡のほうが手間と時間がかからないためです。

 

 

事業譲渡の場合、その事業に関する契約の主体である会社自体が別の会社になるため、会社が結んでいる、その事業に関わるすべての契約関係が巻き直しになります。例えば、従業員はいったん全員解雇して、譲渡先の会社と新規で雇用契約を結ぶ形になります。また、金融機関からのこれはM&Aに関係なく、どの会社でも起こる可能性があることです。

 

また、会社と外部の取引先、リース会社、金融機関などとの契約も原則的にはそのままです。ただし、契約書に株主が変更になった場合に契約を見直す旨の条項(COC条項)がある場合は、見直されることがあります。

M&Aの方法③:法人の形自体を変える「組織再編」

株式譲渡は、法人をそのまま売却する方法であり、事業譲渡は、法人は売らずに事業だけを売る方法です。それに対して、組織再編とは法人の形自体を変える方法です。

 

組織再編には、1つの法人を2つ以上に分ける「分割」や、2つの会社(売り手の会社と買い手の会社)をまとめて新しい会社にする「合併」があります。また、合併にも、既存の会社に合併させる吸収合併(吸収する法人は残り、吸収される法人は消滅する)と、新しく法人をつくって合併をする新設合併(合併するすべての法人が消滅し、新法人が残る)の方法があります。

 

事業承継目的のM&Aで主に用いられるのは、買い手企業が売り手企業を吸収する、吸収合併です。吸収合併の場合、吸収された会社は消滅する点が、株式譲渡との大きな違いです。また、契約関係などの点では「包括承継」といって、まとめて引き継ぐ形になるので、事業譲渡のように、個別に契約を巻き直す必要は原則的にはありません。

 

吸収合併は法人組織を変更するための手続上のコストがかかります。また、組織を完全に統合するためのノウハウや時間も必要です。この点が合併のネックになります。

 

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まんがでわかる 実録!中小企業のM&A

まんがでわかる 実録!中小企業のM&A

篠田 康人

幻冬舎メディアコンサルティング

「後継者がいない」 「事業再生しないと生き残っていけない」 「将来、事業を維持できるか不安」 このような悩みを抱えている経営者が増えています。 大切に育ててきた会社を承継する人が身内や社内にいない場合、選択…

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