災害列島、ニッポン。毎年必ず起こる地震に伴い、「地盤沈下」「液状化」といった被害も、ニュースで取り上げられています。特に地盤沈下に関しては、もはや「わが国の持病」とも言えますが、実はその始まりは、戦後の経済成長にあったことをご存じでしょうか。本記事では、『改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋して解説します。

戦後の発展によって地盤が沈む国土になった

地盤沈下が起きる大きな要因のひとつとしてよく取り上げられるのが、地下水の汲み上げです。

 

特に戦後の日本では、急激な産業の発展により、主に工業用水として盛んに地下水の汲み上げが行われました。地下水を過剰に汲み上げると、その周辺の地層の水分までも吸い取ってしまい、地盤の体積が減少。その結果、広い範囲にわたって、地面が沈降してしまうのです。

 

高度経済成長期、日本各地でこうした地盤沈下が発生して、大きな社会問題になりました。この時期、光化学スモッグやヘドロの発生、環境悪化による深刻な公害病などの問題も各地で起きましたが、その後制定された環境基本法においては、大気汚染や水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、悪臭と並んで、地盤沈下は「典型7公害」のひとつにあげられています。

 

その被害を抑えるため、すでに1960年代以降、地下水の汲み上げに対して制限が加えられるようになりました。また、現在でも全国の地盤沈下地域は環境省が継続的にチェックを行い、沈下が著しい場合にはその都度特別な対策も行われるようになっています。

 

こうして、地下水の揚水による地盤沈下はだいぶ緩和されてきたといえるのですが、それでも「問題が解決した」ということではありません。

 

たとえば北関東地域では、栃木県南部を中心に現在でも地下水の汲み上げによる地盤沈下が深刻で、もともと地下にあった水道管が地表に出てしまったり、河川の堤防が沈下して洪水の危険性が高まったりという問題が起きています。同地域では、できるだけ地表を流れる河川の水を利用する方向に転換するなどの対策も進められていますが、沈下を抑えるまでには至っていません。

 

◆山を削り、谷を埋めて発展してきた日本

 

地下水の汲み上げによる地盤沈下は、多くの場合、広い地域で起こるものですが、それだけでなく、立地条件に起因して、個々の建物で沈下が起きるケースもたくさんあります。これもまた、日本の経済成長が大きく関係しています。

 

先日読んだ本の中に、とある私鉄沿線の新興住宅地のことが書いてありました。都心から30分くらいの、多摩丘陵内に位置するその地域は、1960年頃までは、たった50世帯ほどの農家が散在する典型的な里山の風景だったといいます。それが、電車が開通し住宅地として開発された結果、現在では同じ地域内におよそ7000世帯が暮らしているのだそうです。

 

40年あまりの間に世帯数140倍という急激な増加です。そうした人口増が、都心の人材需要を支え、日本の高度経済成長の原動力となったわけです。

 

しかしもちろん、50世帯だった土地に、何の対策も講じることなく7000世帯が暮らせるようになるわけはありません。その過程で、これまで田畑だった土地を造成し直し、山の上や斜面を切り崩し、谷や窪地を埋め立て、新しく住宅を建てられる土地を人工的に急拡大させていったのです。

 

住宅地ばかりではありません。地方都市近郊へ行くと、平地に延びる国道バイパス沿いにはロードサイドの大型店舗が並び、また、その周辺の平地や丘陵地には、地域の経済活性化を狙って、大規模な工業団地や物流基地が造成されていることがあります。これらの多くもまた、もともとは田畑や、もっと起伏のある土地だったのです。

 

たとえば神奈川県の横浜市では、2006年度から2009年度にかけて、市内の大規模盛土造成地——つまり、谷などを大がかりに埋め立てた場所について独自に調査した結果を公開しています。

 

それによりますと、横浜市それ自体が海岸部を除いてほとんど丘陵地であるという条件はあるものの、市内の大規模盛土造成地の数は3558ヶ所。この横浜市の例だけを見ても、大都市周辺や郊外の丘陵地での“造成密度”の高さにはまったく驚かされます。

 

そもそも、日本の国土は起伏に富み、海岸線は入り組んでいます。大まかに言って、日本は約7割が山地や丘陵地であり、平野部は残り3割に過ぎません。もちろん、そうした平野部の中には、関東平野をはじめそれなりの面積を有しているところもあります。しかしまた、それら平野部のすべてが人の思いどおりになる土地とは限りません。

 

短く勾配が急な日本の河川は歴史的に氾濫を起こしやすく、そのため平野部の中でも河川に近い地域の地盤は軟弱なところが多くあります。

 

また、一言で「平野」といっても、どこまでも平らな土地であるとは限らず、先の横浜市の地形でもわかるように、たとえば東京や神奈川など、南関東では少し内陸に入ると、多摩丘陵と呼ばれる、緩やかな起伏が連なっています。

 

こうした、狭く複雑な起伏を持つ国土の上に、世界でも上位ランキングに入る人口密度と、現在、多少揺らいでいるとはいえ世界トップクラスの経済力と、世界中で高い信頼性を勝ち得ている製品を供給する工業力が詰め込まれているのが、現在の日本という国なのです。

 

かつての自給自足度の高い田畑と、豊かな生活物資を供給してくれる雑木林の丘陵や山が連なる、のどかな光景を維持していられるわけがありません。つねに賛否両論があったと思いますが、先述のように大胆に、国土をつくり替えていく必要があったのです。

改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9 割

改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9 割

松藤 展和

幻冬舎メディアコンサルティング

4年前出版し関係者の間で話題沸騰したあの書籍が、「傾いた床」による様々なリスクを追加収録し、 【改訂版】としてパワーアップして帰ってきた! たった0.6度の床の傾きで、業務も傾く! 日本の建物の9割が地盤に起因…

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