日本は「足が地に着いていない建物」に溢れている
先の東日本大震災では、液状化が発生した地域はもちろん、津波被害が大きかった地域でも大きな地盤沈下が起きたことが知られています。宮城県の牡鹿半島(石巻市)では1.2メートル、岩手県陸前高田市では84センチと、子どもの背丈ほども沈下してしまいました。
しかし、もしもあの不幸な大震災がなかったとしても、現実的に申せば震災が起きる以前からも、日本列島では、関東以北だけでなく全国のいたるところで地盤沈下が起きていたのです。地盤が不均等に沈む「不同沈下」は、日本の国土に建つ建物にとって「持病」といえます。
持病というからには、何らかの“症状”があるはずです。本記事では、それが持病になってしまった経緯を説明します。
◆“足が地に着いていない”建物がある
私たちは、普段の会話の中で、「足が地に着いていない」といった表現を使うことがあります。「どうもアイツは足が地に着いていない奴だよ」と言えば、浮ついていて、何をやっても長続きしないとか、ころころ態度が変わるとか——ちょっと信用して何かを任せようという気にはなれないような人間だ、というマイナス評価になります。しっかり地面に足を踏んばっていないのですから、どうにも不安定で、姿勢が定まっていない。そんな状態を表す言葉です。
もちろん、人間の足は地面にがっちりくっついているわけではありませんから、(さすがにフワフワ浮いている状態は考えにくいにしても)しっかり足場を確保できていない、今にも転びそうな体勢になってしまうのは、考えにくいことではありません。
しかし、実は建物の中にさえ、きちんと「足が地に着いていない」ものがある、といったらどうでしょうか。何も東南アジアの水上住宅のような、特殊な例をあげているわけではありません。今われわれが暮らしているこの日本で、それも、工場や倉庫のように大きくがっしりと建っているように見える建物でさえ、そうなのです。
もともと地面の上に建っているものなのですから、「地に着いていない」などありそうもない、と考えるのが普通の感覚かもしれません。とは言え、地面に接している建物の“足”=基礎部分がフラフラと位置が定まっていないわけではありません(もちろん、中にはそのような欠陥設計・施工の建物もあるかもしれませんが)。
問題は、建物自体はしっかり建っているようであっても、地面のほうがじわじわと逃げてしまい、結果的に、建物が中途半端な状態に置かれてしまっている例がたくさんある、ということなのです。さすがにこうなると、「何だか頼りないなあ」ではすまされません。
多くの工場や倉庫などの大きな建物では、床は荷重を支える丈夫な鉄筋コンクリート=土間コンクリートでできています。しかし前述のような不安定な状態の建物では、やがて床下の地面が沈み込んでしまい、それにつれてコンクリートの床が傾いたり、窪んだりしています。場合によっては、床下に空隙までできてしまい、床が崩落する危険性があるところまで症状が進行してしまっている、深刻なケースさえあります。ここで、「なぜそのような沈下が発生するのか」——日本の国土の事情について説明していきます。