(c) Steve Lazarides 2019

正体不明の画家・バンクシー。サザビーズオークションで自らの作品『風船と少女』が1億5000万円と高額落札された瞬間、「意図的に」本作を裁断したシュレッダー事件(2018年)で注目を集めたほか、今年の夏にはネズミを地下鉄に描く動画が大きく報道されるなど、何かと世間を騒がせている。書籍『BANKSY CAPUTURED』(KKベストセラーズ)では、謎に包まれたアーティストがその姿を初めて公開した。バンクシー研究家の第一人者、東京藝術大学大学院教授の毛利嘉孝教授が解説する。今回は第3回目。

貧富の差が拡大する時代…当時のアーティストたちは

バンクシーが活動を始めた1990年代から2000年代にかけて、英国の都市は再開発と商業化が進みます。

 

『BANKSY CAPTURED』(c) Steve Lazarides 2019
『BANKSY CAPTURED』(c) Steve Lazarides 2019

1997年に43歳のトニー・ブレアが首相に就任。ブレア政権は文化政策のひとつとして、文化や芸術を新しい成長産業として位置付けた「クール・ブリタニア」を掲げました。

 

ミレニアムに向けて、たとえばロンドンではテムズ川河岸を中心に再開発が起き、街はどんどんきれいになっていきました。

 

大規模なショッピングモールや多国籍資本のチェーン店が増加する一方で、小さな地元の商店は少なくなり、その結果落書きが消えていく。

 

国家や自治体、企業は、しばしば抑圧的な相貌で、圧倒的な数の生活者(=住民)を「支配」するようになります。グローバル化の名の下に貧富の差が拡大する時代でもありました。

 

「リクレイム・ザ・ストリーツ」は、こうした流れの文化と政治における対抗運動だったのです。

 

バンクシーが監督し、アカデミー賞候補作にもなったドキュメンタリー映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』(2010年)は、ストリート・アートに熱狂する人々を通して、アート・マーケットに痛烈な批判をしている映画ですが、同時に2000年代当時のグラフィティ作家たちの日常生活や活動を丁寧に描き出した、貴重な映像資料としても見ることができます。

 

映画ではバンクシー以外のストリート・アーティストがいかにして都市空間を取り戻そうとしているのかが描き出されています。特に、リチャード・ホーリーが歌う映画の主題歌《Tonight the Streets Are Ours》という曲ほど、この時代の気分を示したものはないでしょう。ストリート・アーティストたちは、夜中にこっそりと街に繰り出し、ストリートを自分好みの風景に変えることによって、ストリートを「自分たちのもの」にしようとしたのでした。

 

グラフィティ・ライター時代のバンクシー作品のメッセージもまた、この時代の空気を共有していたのだと思います。

 

【次回は最終回。作品解説です】

 

解説:毛利 嘉孝(東京藝術大学大学院教授)

聞き手:原田 富美子(KKベストセラーズ)

編集:GGO編集部

BANKSY CAPTURED

BANKSY CAPTURED

監修:Steve Lazarides
連載解説:毛利嘉孝

KKベストセラーズ

遂にバンクシーをとらえた衝撃の話題作品集。 覆面アーティスト・バンクシー(Banksy)と11年間仕事をともにしてきたスティーブ・ラザリデス(Steve Lazarides)による本人写真や未発表作品などを公開。謎に包まれたバンク…

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