「現代美術はよくわからない」に対なすバンクシー作品
⬛︎バンクシー作品の真のメッセージとは何か?
――現代美術は難しいというイメージがあります。バンクシーのメッセージはどうでしょうか?
(毛利)現代美術は、一般的に難解だと思われています。専門的な知識がないと理解しづらい面もあるでしょう。
作品は「それまで現代美術のなかで議論されてきた何かについての何か」だったり、過去の現代美術を参照することで初めて理解できる……といったゲーム化した側面があります。ルールが複雑になり過ぎてしまい、ルールを知らない人、これまでの現代美術の歴史を知らない人には、何をしているのか、何が面白いのか分からない……というわけです。
対して、バンクシーの世界は非常にわかりやすい。大きな特徴はアイロニーやブラック・ユーモアですが、基本的にそのメッセージはかなり明確です。「英国文化やアートの歴史を知っていればとわかる」とか「大人だから伝わる」といったハードルの高いものではない。
インスタグラムやツイッターなどのSNSから発信されるコメントによってバンクシーのメッセージはさらに補強され、よりわかりやすくなります。
――書籍『BANKSY CAPUTURED』から読み取れるバンクシーのメッセージは何だと思いますか?
(毛利)「ストリートを取り戻せ(リクレイム・ザ・ストリーツ)」ということではないでしょうか。これは、1990年代から2000年にかけて英国で起きた若者の社会運動の名称であり、スローガンでもあります。
「ストリートを取り戻せ」は、もともと資本主義の象徴である自動車を追い出して、歩行者が道を取り戻そうとする環境運動でした。
本来、都市や道路の主人公は「我々」なのに、いつの間にかその権利を奪われている。行政や警察、大きな会社や資本が都市や道路を使っており、今や自分たちのような「名前を与えられない無数の人々」は、空間から排除され、街を自由に使うことができなくなっている、というわけです。「都市は誰のものでもなくて、むしろ、自分たち匿名の人間こそが都市の主役ではないか。都市を、空間を、都市の景観を取り戻そう!」というのが運動のメッセージでした。