(c) Steve Lazarides 2019

正体不明の画家・バンクシー。サザビーズオークションで自らの作品『風船と少女』が1億5000万円と高額落札された瞬間、「意図的に」本作を裁断したシュレッダー事件(2018年)で注目を集めたほか、今年の夏にはネズミを地下鉄に描く動画が大きく報道されるなど、何かと世間を騒がせている。書籍『BANKSY CAPUTURED』(KKベストセラーズ)では、謎に包まれたアーティストがその姿を初めて公開した。バンクシー研究家の第一人者、東京藝術大学大学院教授の毛利嘉孝教授が解説する。今回は第3回目。

欧米と日本…「落書き」に対する感覚の差は強烈

⬛︎落書きを汚いと思うのは管理者側の感覚だ

 

――日本にもバンクシーのようなアーティストは誕生しますか?

 

(毛利嘉孝教授:以下、毛利)あえていえば、東日本大震災の直後にステンシルの作品を発表した281_anti nuke(読み:にぃはちいち_あんちぬーく)なんかはスタイルやメッセージが似ているけど、なかなか表には出て来ませんね……。

 

※ステンシル…アート制作の手法のひとつ。デザインを切り抜いた型紙の上から、スプレーなどで塗料を吹きかけ、絵や文字を生み出す。

 

日本は捕まるリスクもかなり高いし、英国のようにグラフィティ(落書き)・ライターが持てはやされるとは考えにくい【記事の写真を見る】

 

(c) Steve Lazarides 2019
ロンドン中心部ハックニー区のShoreditch(ショーディッジ)でのもの。電話ボックスの横の壁に型紙を置いて、まず衛兵の位置を定めているようだ。 (c) Steve Lazarides 2019

 

そもそも英国と日本では、グラフィティに対する感覚がかなり違いますよね。ロンドンでもベルリンでも、ヨーロッパには落書きが溢れている。もちろん文句をいう人も多いけど、結果的にある程度グラフィティを認める土壌があるんです。多くの人は「合法ではないかもしれないけれど、だからといって、いちいち警察が取り締まるようなものでもない」と思っている。

 

そもそもエスニック・マイノリティやコミュニティの表現活動という一面もある。落書きは「消せばいい」もので、いい絵なら落書きも「面白いよね」と認める文化があります。一方の日本は、グラフィティに関して厳しいですよね。取締りの対象以上のものではないようです。

 

※エスニック・マイノリティ…民族的少数民。英国では主に非白人人種を指す言葉として使われている。

 

落書きも何もない空間や場所を、きれいだ、美しいと思うかどうか。そもそも英国などのヨーロッパと日本では、そうした感覚の違いがあるように思います。

 

子どもは皆、壁や道路に落書きをするのが好きですよね。そういう本能や欲望があること、そして落書きは楽しいということを大人になっても覚えていて、落書きに対してどこか寛容な文化が残存している。

 

そもそも「落書き(グラフィティ)を汚い」と一方的に思うのは、描く側でも都市の住人でもなく、都市の管理者側の感覚ではないでしょうか。管理者の視線を知らず知らずのうちに内面化してしまっているのかもしれません。

 

どちらが良いとか、どちらが進んでいるという議論ではありませんが、少なくとも日本と英国では落書きに対する寛容度の違いがかなりあります。バンクシーがこれほど国際的なスターになったのは、やはり英国ならではということでしょうね。

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BANKSY CAPTURED

BANKSY CAPTURED

監修:Steve Lazarides
連載解説:毛利嘉孝

KKベストセラーズ

遂にバンクシーをとらえた衝撃の話題作品集。 覆面アーティスト・バンクシー(Banksy)と11年間仕事をともにしてきたスティーブ・ラザリデス(Steve Lazarides)による本人写真や未発表作品などを公開。謎に包まれたバンク…

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