(c) Steve Lazarides 2019

正体不明の画家・バンクシー。サザビーズオークションで自らの作品『風船と少女』が1億5000万円と高額落札された瞬間、「意図的に」本作を裁断したシュレッダー事件(2018年)で注目を集めたほか、今年の夏にはネズミを地下鉄に描く動画が大きく報道されるなど、何かと世間を騒がせている。書籍『BANKSY CAPUTURED』(KKベストセラーズ)では、謎に包まれたアーティストがその姿を初めて公開した。バンクシー研究家の第一人者、東京藝術大学大学院教授の毛利嘉孝教授が解説する。今回は第2回目。

「美術の定義」から逸脱したバンクシーの作品

⬛︎正体不明を維持する圧倒的な情報管理能力の秘密

 

――バンクシーは、アーティストとして、どのように評価されていますか?

 

(毛利嘉孝教授:以下、毛利)バンクシーは不思議な作家です。作品の魅力もさることながら一番すごいところは、その情報管理能力にあると思います【記事の写真を見る】

 

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瞬時に全世界にニュースが流れる時代に、これだけ注目されているにも関わらず今だ正体不明でいられることは、普通ではあり得ない。これだけでも、いかにバンクシーの情報管理能力が秀でているかが分かります。

 

(c) Steve Lazarides 2019
2001年のバンクシー。作品は、ギャラリーではなく鉄橋の下のトンネルの壁に描かれ、“展示”された。バンクシーはまず、壁に白いキャンバスを作ることから始めている。 (c) Steve Lazarides 2019

 

一方で、自らの活動をインスタグラムやツイッターで世界中に発信し、その日のうちに世界中のメディアが取り上げる……。バンクシーはこういう独自の情報拡散のルートを確立した人でもあります。

 

自分のイメージを巧みに管理し、神秘的であると同時に魅力的でもある……。彼はグラフィティ(落書き)・アーティストとして、もちろん重要ですが、何よりネット時代の情報の管理者・発信者としても評価されるべきでしょう。

 

――アートの歴史のなかで、バンクシーはどんな存在なのでしょうか?

 

(毛利)バンクシーがほかの歴史的な作家、たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチでもセザンヌでもいいのですが、彼らと決定的に違うのは、作品がほとんど残っていないこと。

 

一般に作家にとっては作品が残っていることがまず大前提で、写真やカタログは二次的生産物でしかありません。だからこそ美術館やギャラリーの展覧会がすごく大事だし、「本物はやはりすばらしい」という話にもなる。

 

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もちろん1960年代からコンセプチュアル・アート、形のないアートはありましたが、そうした作品も今では美術館の所蔵品になっている。一般的に美術の定義のひとつは「美術館に残っていること」でしょう。美術館にさえ残っていれば何であれアートになります。たとえば、マルセル・デュシャンの有名な『泉』というトイレの作品は、美術館の外に置いてあったら、ただのトイレに過ぎません。

 

バンクシーの作品は、最近でこそオークションにかけられるとはいえ、美術館に収蔵されているものはほんの一部。彼の主戦場は、あくまでもストリートであり、公的な開かれた空間です。ストリートに描かれた作品の多くは真贋がはっきりしないので、コレクションにも向いていない。消されたり、上書きされた作品も多い。多くの作品は、写真やネットも画像として残っているに過ぎない。極端な言い方をすれば、それらがなければバンクシーは存在していないも同然なのです。

 

2000年代にインターネットが一気に普及したことで、グラフィティのシーンは大きく変わりました。2000年代前半のネット黎明期の作品はほとんど残っていませんが、iPhoneが登場した2007年頃からネットの世界に多くの作品が残るようになったのです。

 

こう考えると『BANKSY CAPUTURED』は、バンクシーの右腕・ラザリデス自身が書いているように、デジタルメディアがまだ黎明期だった時代に、アナログのフィルムで残された貴重な写真集です。それは、21世紀のメディア環境が生み出したバンクシーという特異な作家の誕生を映し出したものといえるかもしれません。

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    監修:Steve Lazarides
    連載解説:毛利嘉孝

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