毎年恒例、幻冬舎ゴールドオンラインの相続特集が開幕! 最新情報から大人気記事のピックアップまで、盛りだくさんでお届けします。今回は、母親が生前に子どもたちに現金をあげていた話。問題は、長男が多くもらっていたことだ……。その差に目をつけた長女が?

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姉がお金を欲しがった理由は…衝撃の「株式投資」

大将さんが再び事務所にやってきたのは、それから1週間後のことだった。姉と話し合い、一応の解決が見えたという。事務所の中に案内すると、大将さんは「いろいろご心配おかけしました」と言い、深々と頭を下げた。

 

「いいんですよ。まあ、座ってください」「ありがとうございます。それにしても、マイッタ。いやあ、マイッタ」大将さんは大きく息をついた。ひと息つき、大将さんは姉のことを話した。

 

「兄弟といえども、相手のことはわからないものですね」大将さんが言う。「お姉さんの事情がわかったんですね」「ええ。投資でした」「投資?」「はい。私がまったく知らないところで、株にはまっていたようなのです」

 

大将さんの話によると、姉は数年前から株式投資をするようになったのだという。ちょうどアベノミクスが始まった頃で、世間が株価上昇に沸いていた。

 

「投資はもともと好きだったのですか?」「いいえ、兄や私よりも堅実で、ギャンブルなども毛嫌いしていました。しかし、知人に勧められて買った株で運よく儲かったんです」「ビギナーズラックですね」「はい。それでのめり込むようになったのです。最初は数十万円くらいのお金でコツコツ投資していたようなのですが、だんだん投資額が大きくなったのです」

 

最初こそ調子よく勝てたものの、徐々に勝てなくなり、資金が減っていった。投資の世界にはその道何十年というプロがいる。素人が簡単に勝てるものではない。1年後には母親から贈与された500万円に手をつけるようになり、そのお金もなくなった。

 

それでも姉は最初に儲かったときの快感が忘れられなかった。たまに勝つと気持ちが大きくなり、投資資金を増やす。負けたら取り返そうと考え、さらにお金を突っ込む。典型的な負けパターンだ。もともとギャンブラーの気質があったのかもしれないし、刺激が欲しかったのかもしれない。

 

「姉の真意」の闇は深かった
「姉の真意」の闇は深かった

 

「それでお金に困るようになったわけですね」「ええ。相続したお金がなくなると、生活費にまで手をつけるようになりました。何度か消費者金融から借りたこともあったそうです」「厳しいですね」「ええ。その返済が危なくなり、母にお金を借りていました。先生がおっしゃっていた特別受益です」「やはりもらっていましたか」「はい。姉は50万円借りたと言っていましたが、あの口ぶりだと、その2、3倍はもらったのではないかと思います。もっともらったのかもしれません」

 

「相続のやり直しを言い出したのも、投資資金が欲しかったからなのですね」「そうです。当然、そんなことのためにやり直しなんかできないと言ってやりました」「それがいいでしょうね。株を否定するわけではありませんが、その調子ではまた資金不足になってしまうでしょう」「そうですね」大将はそう言って笑った。

大将さんの優しさで「兄弟ゲンカ」を回避

「それでお姉さんは納得したのですか」「最初は猛反発していました。兄がたくさんもらっている、私はもっと受け取る権利がある。その一点張りでした」「しかし、お姉さんもお金をもらっていたんですよね」「ええ。それでも、自分がもらった分は棚に上げて、兄が多くもらっている分を自分によこせと言い張っていたんです」

 

「無茶苦茶ですね」「はい、無茶苦茶です。自分の姉でありながら他人のように見えましたし、他人であってほしいとも思いました」「もともとそういう強気な性格だったのですか?」「いいえ。どちらかというと穏やかなほうです。しかし、お金に困っているという現実があって、背に腹は代えられない状態だったのでしょう。それと──」

 

「それと?」「どうやら近くに相続に詳しい人がいたようで、その人から相続のやり直しなどについて話を聞いたようなのです」

 

やはりそうか。姉の近くに入れ知恵する人物がいた。特別受益のこともその人物が教えたのだろう。

 

相続トラブルでは、ごねた人が得するケースが少なくない。そういう実情を知っている人が近くにいたのだ。もしかしたらその人自身が、過去にごねて得したのかもしれない。自分がもらった分は隠しておけばいい、兄が多くもらっているんだからそこからもらえる。そういったことを教えたのだろうと思った。

 

「どうやって説得したのですか」「私が200万円渡しました」「大将さんが?」「はい。たまたま母から相続したお金をそのままにしてありましたので、それを渡すことにしたんです。それで、この相続やり直しの話はなしにするという約束で」

 

優しい男だと思った。「そこまでお姉さんのことを心配しているとは思いませんでした」私はそう言った。実際、そのようには見えなかったからだ。「いえいえ、姉のことというより、兄弟仲が壊れるのを避けたかったんです。兄を巻き込むようなことになれば、ますますトラブルが大きくなります。亡くなった母親もそんなことは望まないでしょうから」

 

「お母さまはどんな人だったのですか?」「よくも悪くも、子どもに甘い人でした。兄がお金に困っていれば、妹、弟には内緒だよと言ってお金を渡す、姉が困っていれば、兄さん、弟には内緒よと言ってお金を渡す。そういうところがあったんです」「そうでしたか」

 

話を聞きながら、母親の姿が目に浮かんだ。お金を援助するのは構わないが、他の兄弟に内緒にしていたことが問題だ。長男は事業でお金がいる。長女がお金に困っている。そういう事情を話しておけば、このようなトラブルにはならなかったのではないか。

 

母親に悪意はない。むしろ善意しかない。子どもを支えようとしているだけだ。しかし、その優しさが子どもをダメにすることがある。もしかしたら大将さんも、優しい母親の血を引いているのかもしれないと思った。いくら兄弟だからといって、ポンと200万円もの大金をあげるのは難しい。自分で店を切り盛りしている人ならなおさらである。その考えを察知したかのように、大将さんが言う。

 

「甘いなあと思っていますよね」そして、頭を搔(か)いた。「いや、そんなことは」私は言葉を濁したが、濁しきれなかった。昔から噓はどうにも苦手なのだ。

 

「いいんです。私自身、なんで還暦をすぎた姉の面倒を見なければならないんだと思います。でも、現状として、それしか方法が思いつかなかったんです」「そうですね。最善の方法だったと思います。あとはお姉さんがしっかりしてくれれば無事解決でしょう」「ええ。頭を冷やしてくれることを望みます」大将はそう言って笑った。

「相続トラブルの種」は放置してはいけない

「ところで先生、もう1つ相談があるのですが」大将が言う。「何でしょうか」「今回の件で私は姉にお金をあげたわけですが、それは税制的にはどうなるのでしょうか」

 

「貸すのではなく、あげるのですか?」「ええ、姉弟で貸し借りはしたくありません。どうせ貸したとしても返ってこないでしょうし、この件はこれでケリをつけたいんです」「そうですか。その場合は贈与になりますので贈与税が発生します」「いくらくらいですか?」「贈与税は1年につき110万円まで非課税ですから、残りの90万円に対して10%の税金がかかります。つまり、9万円です」

 

「そうですか。仮に、母から相続したお金を再分配するというやり方でも、税金は同じですか?」「はい。税法上は、一度相続が成立した時点で遺産の分割が終わったことになりますので、その後で遺産を移動させると税額の再配分となるのです」

 

「なるほど。すみませんが、その辺の手続きをお任せしてもいいですか。もちろん、前回の相談料と合わせてお金は払いますので」「構いません。それと、お金は不要です。こんなことでお金を受け取ったらママに怒られますからね」「そうですか。では、お言葉に甘えさせていただきます。せめてうちの店の寿司だけでもご馳走させてください」「それはありがたい。では、私も遠慮なくご馳走に上がります」私は笑顔でそう答えた。

 

それからしばらく大将と雑談し、彼を見送った。トラブルに巻き込まれた大将さんは気の毒であったが、調停や裁判になる前に解決できたという点ではハッピーエンドだったといえるだろう。

 

相続トラブルは、放っておいても解決しない。放っておく時間が長くなるほど、多くの人を巻き込み、大きくなっていく。もめないことが第一であるが、もめそうなら早く手を打つ。それが大事だ。

 

大将さんの家の場合、母親が兄や姉を甘やかしたことですでにトラブルの種がまかれていた。その種が芽を出し始めた時に、大将さんが解決に動いたからこそハッピーエンドとなったのだ。もちろん、美味しい寿司をタダでいただけることになった私にとってもハッピーエンドである。

 

 

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炎上する相続

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髙野 眞弓

幻冬舎メディアコンサルティング

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