高齢化の進展や認知症リスクの増大に伴い、資産凍結など高齢者の財産管理に不具合が生じています。そんななか注目されているのが「家族信託」です。なかでも、筆者は実家の信託に特化した家族信託を「実家信託®」と名付けています。家族信託の理解を深めて、有効な認知症対策として活用するために、信託法における「人物」とその役割について解説します。※本連載は、司法書士・杉谷範子氏の著書『介護とお金の悩みを実家で解決する本』(近代セールス社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「委託者=受益者」にすることで課税を回避

「受益者」とは、受益権を有する者のことをいい、2つの権利から成り立っています。

 

①受益者の2つの権利

一つは「実家信託においては実家に住む権利、実家を貸したときの賃料を受け取る権利、実家を売ったときに売買代金を受け取る権利」(以下「受益債権」という)で、もう一つは「受益者が受託者その他の者に対して一定の行為を求めることができる権利」です。

 

前述のように、信託を組むときの基本形は「委託者」=「受益者」ですが、もし、受益者(利益を受ける人)を委託者(当初の財産の所有者)以外にすると(たとえば、父親が委託者で受託者を息子、受益者を母親にして、父親と母親の間で金銭のやり取りがない場合)、父親から母親に無償で財産権が移転したとみなされ、信託契約をした途端、贈与税がかかってしまいます。

 

実家はタダで住んでいるので、受益者を父親から母親へ変えても贈与税がかからないのではないか…。と考える人もいますが、タダでも実家の不動産そのものを贈与されたとみなされるので、実家の不動産評価額を基準に贈与税がかかります。

 

それなら、贈与を避けるために売買したらどうかというと、母親には父親に信託する財産の適切な評価での金銭を支払う必要が生じます。もし、安い金額で売買してしまうと、こちらも贈与とみなされて、贈与税がかかる可能性があるのです。

 

したがって、当初の財産の所有者である委託者を受益者に設定することがポイントになります。繰り返しになりますが、税務当局はケーキの持ち主を所有者として、ケーキの持ち主が変わると財産価値が移動したとみなして課税しますので、常に誰がケーキを持っているかに留意する必要があります。

 

②受益者代理人と信託監督人

委託者、受託者、受益者の他に、受益者を守ったり信託を監督したりする次のような“名脇役”も登場します。

 

●「受益者代理人」(受益者の代理人)

→受益者を代理して受益者の権利を行使する人です。たとえば、受託者に財産管理の状況を教えてもらうように依頼したり、実家信託では受託者と受益者代理人により、状況の変化に応じて信託契約を変更できるように設定したりします。

 

●「信託監督人」

→受託者が財産管理を確実に行っているかを監督する人です。

 

委託者に子どもが数人いて、相互に牽制しながら実家の管理や処分を任せたいような場合は、それぞれの子どもに受益者代理人や信託監督人になってもらい、実家を処分するときには承諾を得るようにするなど、受託者の権限に制限を加えることもできます。

 

実家信託では、家族が信託の関係者になるのですが、昨今の少子化の影響で、この名脇役の成り手が不足しています。そこで、「受託者と受益者代理人や信託監督人を兼ねることはできますか」と聞かれることがありますが、残念ながら、受託者を監視するのが名脇役の役目なので、受託者と兼務することはできません。

 

※ 実家信託は司法書士法人ソレイユが商標登録しています。

 

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杉谷 範子

司法書士法人ソレイユ 代表

司法書士

 

 

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介護とお金の悩みを実家で解決する本 認知症で資産を凍結させない実家信託活用法

介護とお金の悩みを実家で解決する本 認知症で資産を凍結させない実家信託活用法

著者:杉谷 範子

税務監修:成田一正

近代セールス社

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