「住む場所に困ることはない」同居息子の慢心
親と同居している子どもの場合、建物は親の単独名義や子どもの共有名義としている家族は多いと思われます。Bさんのように、親と同居して、さらに自宅を相続することが決まっている方にも実家信託は必要です。
Aさん(80歳)は、長男のBさん(45歳・男性)、長女(43歳)、次女(41歳)の3人の子どもがいます。長女と次女は結婚して県外に暮らしており、Aさん夫妻は長男のBさん家族と二世帯住宅で暮らしています。土地はAさん名義で、建物はAさんが3分の1、Bさんが3分の2の共有です。
親と同居しているBさんは、将来、自宅は自分が相続できるようにAさんに遺言を書いてもらっていますし、Aさんが将来、認知症になっても住むには問題ないと考えています。
空き家化しなくても…修繕できず「ボロ家と化す」恐怖
このように同居しているため、自宅が将来、空き家になることはなく、自宅の信託は不要だと思っている方は多いと思います。しかし、不動産の名義人の判断能力がなくなると困るのは、空き家になることだけではありません。
近年、大きな台風や竜巻、大雨、大雪などの異常気象が続き、自分の住んでいる地域がいつ巻き込まれるか、人ごとではなくなっています。建物の老朽化だけでなく、異常気象によっても自宅の修繕が必要になるケースが増えているのです。そして、建物を修繕する際についても建物所有者の意思確認が求められます。工事契約の締結という法律行為があるからです。
工事には多額の資金がかかるので、建物所有者に無断で工事することは業者のコンプライアンス上、問題があります。また、所有者が亡くなった後、相続人から「親の判断能力がないのに、勝手に工事をしたから工事契約は無効だ! カネを返せ!」と損害賠償を請求されるおそれがあることも、取扱いが厳しくなっている理由です。
所有者の意思が確認できない場合は、成年後見人をつけて契約することが求められます。しかし、親が元気な時は工事費用を全額負担してくれる可能性が高かったのに、成年後見人がつくと「Aさんの持ち分は3分の1だし、家族が住む家なので、全額は出せない」と言われるでしょう。さらには、「その工事は本当に必要なのか」と、工事自体を否認されるおそれもあります。
「修繕の備え」にも「遺言がわり」にもなる実家信託
相続法の改正も大きな影響があります。実家の持ち主に相続が発生すると、相続人は一人だけで全員の相続人の名義を法定相続分で登記することができます。
実家信託であらかじめ名義を変えておけば相続になっても慌てる必要はありません。このように信託することで建物の修繕工事が必要になれば、Bさんが工事の当事者として契約できますし、Aさんが亡くなっても、すでに信託で実家はBさん名義に変更されているので、相続人が勝手に自分名義の持ち分を登記することはできません。死亡後の受益者を契約で決めて、承継することもできるので遺言代わりにもなるのです。
<同居の親子へのアプローチトークの例>
「近年は、建物の修繕工事をする必要があったときに、所有者が認知症だと契約できないため、工事ができなくなってしまうのはご存知ですか?
また相続法が改正されて、ご自宅などの不動産の相続は『早い者勝ち』になってしまいました。つまり、遺言でご自宅を同居している長男様へすべて相続させると決めていても、イザ相続が起きてしまうと、自分の法定相続分を先に登記した相続人が自分の持ち分だけ売ることができるのです。
不動産業者などの第三者へ売られてしまうと、新しい相続法では取り戻しができません。そのような心配をしないためにも、実家信託で生前に名義をご長男に変えておくのはいかがでしょうか?」
※ 実家信託は司法書士法人ソレイユが商標登録しています。
杉谷 範子
司法書士法人ソレイユ 代表
司法書士
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