通常「不動産の名義変更」には4つの税金がかかるが…
信託を組むときの基本は「委託者」=「受益者」です(前回の記事『親の認知症で財産を凍結させない…「実家信託」の上手な活用法』で解説。関連記事参照)。
委託者自身が益を受けるので、このような設計の信託を「自益信託」といいます。
「委託者」=「受益者」の場合、受益権の移転がなく、受益者である委託者が財産価値を有することになります。税法上は、原則、受益者が信託財産を有するとされるため、財産の名義が受託者へ変わっても所有者は変更していないと判断され、贈与税は課されません。受益者に課税される「受益者等課税信託」を原則としているからです。
信託設定時は不動産に不動産取得税や譲渡所得税はかかりません。また、所有権移転の際の税金(登録免許税)も低く抑えられています。
①不動産取得税
土地や家屋を購入したり、家屋を建築するなど不動産を取得したときに、有償・無償の別、登記の有無にかかわらず、売買、贈与、交換、建築(新築、増築、改築)などにより取得した人(個人、法人を問わず)にかかる税金です。ただし、相続により取得した場合は課税されません。
信託により不動産の名義だけを書き換えても、受託者が不動産を取得した訳ではないので、課税されることはありません。
②登録免許税
不動産を登記するときにかかる税金です。贈与など所有権移転を伴う通常の登録免許税にかかる1,000分の20に対して、信託の場合は1,000分の4と通常の税率の5分の1と低額になります。
③譲渡所得税
不動産の売却益にかかる譲渡所得税は、「委託者」=「受益者」の信託の場合には、財産価値の移転がなく譲渡益が発生しないためかかりません。ただし、委託者が受益者ではなく第三者が受益者として金銭などの対価を受け取る場合は、譲渡益が発生することがあります。この場合は譲渡所得税が発生します。
④贈与税
贈与の際に一定金額以上を贈与したときにかかる税金です。
「信託の途中でかかる税金」は大きく分けて2種類
①固定資産税、譲渡所得税、贈与税
実家を信託すると名義が受託者になることから、固定資産税の納税義務者は受託者となり、受託者あてに納税通知書が届くようになります。ここで注意が必要なのは、受託者の自宅と実家が同じ市区町村内にある場合です。受託者には、自宅の固定資産税と信託した実家の固定資産税の両方が請求されるため、税金の明細をよく確認する必要があります。
信託している間は、信託不動産からの収益(賃料など)や費用は、受益者の収益や費用とみなされます。そこで、受益者が受益権を売却し売却益が出た場合は、受益者に譲渡所得税がかかります。同様に受益者が受益権を贈与したときも、贈与を受けた人には贈与税がかかります。
ところで、受益者が個人の場合は信託不動産の所得に損失が生じても、他の所得と相殺はできません。また、翌年以降への繰り越しもできないため、損益通算には注意が必要です。
②固定資産税の支払い
実家を信託すると、受託者が固定資産税の納税義務者になりますが、固定資産税は信託事務を処理するのに必要な費用として、原則、受託者が信託財産あるいは自分の財産から支払います。支払額があらかじめ分かっていれば、信託財産から前払いすることができます。受託者が自分の財産から支払った場合は、支出した日以降の利息を付けて信託財産から返してもらうことができます。
また、受託者の信託財産に金銭がなかったり不足する場合は、受益者に固定資産税などの費用を請求できるようにしておきます。そのためには、それぞれ個別に合意して、費用の前払いや立替払いを返してもらうように決めておく必要があります。
「信託終了時の税金」を小さくするには?
信託を終了させるとき、つまり、信託不動産を通常の不動産に戻す場合の登録免許税や不動産取得税は、信託設定時とは異なり負担額は大きくなります。具体的には、登録免許税が原則1,000分の20、信託抹消の登記手数料が不動産一筆につき1,000円かかります。ただし、次のような例外があります。
<①委託者、受益者に変更がなく信託を終了する場合>
信託の委託者=受益者の自益信託で、信託期間中に委託者および受益者に変更がなく、信託終了時に初めの委託者に所有権を戻す場合は、登録免許税、不動産取得税ともに非課税となります。
<②受益者が委託者の相続人のとき>
自益信託で信託設定時から終了まで受益者の変更がなく、信託が終了したときに所有権を取得する人が委託者の相続人のときは、登録免許税は0.4%、不動産取得税は非課税となります。
これには、次の3つの要件を備える必要があります。
●要件1:信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合
●要件2:当該信託の効力が生じたときから引続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合
●要件3:当該受益者が当該信託の効力が生じたときにおける委託者の相続人であるとき
例として、父親が所有者の実家を、委託者兼当初受益者が父親、受託者が息子、父親が亡くなったら受託者の息子に受益権を移して息子が信託を終了させる場合には、登録免許税が軽減され不動産取得税が非課税になります。
これら3つの要件のうち、要件2を満たすためには信託契約の条文に工夫が必要です。信託の契約書で「委託者の地位は受益者が取得する」などと条項に入れて明示しておくことが大切です。この要件を満たすと満たさないとでは、終了時の税金が大きく異なってきます。
土地2,000万円(一筆)、建物1,000万円(一筆)実家(土地、建物とも固定資産税評価額とする)の信託を終了させて、別居している長男が取得したと仮定してみます。
(1)要件3つすべてを満たす場合(相続による税率で計算)
登録免許税は、委託者の変更で2,000円(1,000円×2筆分)、受益者の変更で2,000円(1,000円×2筆分)、信託の終了で12万円(3,000万円×0.4%)
⇒合計12万4,000円
(2)要件3つの1つでも満たさない場合(その他の移転による税率で計算)
登録免許税は、信託の終了で60万円(3,000万円×2%)、不動産取得税は、土地は80万円(2,000万円×4%)建物は40万円(1,000万円×4%)
⇒合計180万円
要件3つを満たす場合と満たさない場合では、登録免許税が大きく変わり、不動産取得税も対象になるので、信託契約書の作成には注意が必要です。
※ 実家信託は司法書士法人ソレイユが商標登録しています。
杉谷 範子
司法書士法人ソレイユ 代表
司法書士
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】