超高齢化社会となった日本。認知症対策のほか、遺言書では定められない部分までもきめ細かくカバーできるとして「家族信託」が注目を集めています。どのようなことができるのか、具体的な事例を用いて活用法を解説するとともに、仕組みをわかりやすく整理していきます。※本記事は、『税理士が提案できる家族信託 検討・設計・運営の基礎実務』(税務経理協会)より抜粋・再編集したものです。

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【4】信託検討のポイントと検討課題 

 

<信託のポイント>

①実家の名義の確認し、ローンが残っていないことを確認する。

②委任および任意後見契約公正証書も作成する。

③長男が実家を管理し、売却をできるようにする。

④父に相続が発生した場合の手続きを誰がするか想定する。

④信託の終了の時期はいつにするか。

⑤信託終了時の信託財産の帰属。

 

<信託の内容>

①信託財産は父の所有する実家の土地建物

②委託者は実家を所有する父

③受託者:長男、後継受託者を長男の妻とする

 受益者:当初受益者は委託者である父(自益信託とする)

 父が死亡後の受益権の取得については次の順位として配偶者、長男とする

 母が父よりも先に亡くなったときの受益者は長男とする

④信託の終了は受益者および受託者が合意したときに終了する

 

[1]不動産を信託財産として、条件を決めて信託 

 

父の意思能力が低下してしまった場合でも不動産を売却して介護費などを捻出できるようにするためには、父の持つ自宅戸建不動産を信託財産として、家族信託しておくようにします。また、信託契約には、売却できる条件を定めておくようにします。

 

このケースでは、父が施設等に入って自宅に居住しなくなった場合というように定めます。そして、信託する不動産については不動産登記名義を長男である受託者に名義を書き換えます。このとき、不動産の修繕費や管理費、固定資産税などを支払うための現金(父の預貯金)も、一緒に信託しておくのがよいでしょう。信託する金銭については、下記のように受託者名義の口座を開設した方がよいです。売却する不動産に未払いのローンが残っている場合、実際には入念な金融機関との打ち合わせが「信託前」に必要となります。

 

[2]成年後見人では限界がある 

 

判断能力が衰えてしまった場合にでも、成年後見人制度を利用することで、本人のために財産を利用することは可能です。しかし、成年後見人が選任されたとしても、実家の売却は困難です。成年後見人は、「成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物またはその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除または抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない」(民法859の3)として、実家の売却については、家庭裁判所の許可が定められているからです。この許可はかなりハードルが高いとされています。

 

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[3]家族信託と同時に任意後見契約 

 

家族信託は受託者による財産管理の制度です。委託者の生存から死後にわたり委託者の意思を受けついだ財産管理を行うことができ、遺言などの従来の制度にない財産管理と財産の分割を行うことができます。しかし、家族信託は高齢者の財産管理において万能ではありません。

 

委託者のすべての財産を信託することはなく、任意後見制度を併用することで高齢者の財産管理を行うことができるようになります。任意後見人を長男にすることで、両親の身上監護に関しても十分な配慮をすることができます。

 

家族信託と同時に公正証書で委任契約および任意後見契約を締結します。委任契約公正証書は、おもに財産管理と身上監護(身の回りの契約や手続き)を委任する契約で、どのような事項をお願いするかは「代理権目録」に細かく記載して決めます。ケガや病気の療養中など、判断能力はあるが財産管理等を代理人にお願いしたい場合に使えます。

 

任意後見契約は、判断能力が低下したときのためにあらかじめ、任意後見人を選んでおける制度です。任意後見人候補者は信頼できる身内にする場合が多く、裁判所が選ぶ法定後見人と異なり任意後見人の選任はご本人の意思が反映されるという大きなメリットがあります。ご本人の判断能力が低下したとされると、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てがされて任意後見が開始されます。

 

[4]自益信託とする 

 

父の介護費用を、父の自宅を売却して捻出できるようにしたいのが目的です。そうするためには贈与税の負担がない自益信託とすることが重要です。つまり実家の所有者である父を当初の受益者にすることです。

 

実家の所有者は父なので、信託をして不動産の名義と財産権である受益権が分かれても、必ず受益者は父にすることが重要です。父以外の人にしてしまうと、不動産そのものを贈与したことになり、贈与税の対象となります。

 

[5]相続により信託を終了させない 

 

次のポイントは信託終了の時を委託者である父の死亡時に設定しないことです。信託を終了させることは通常の所有権に戻ることです。今回の事例で、父の死亡により信託を終了させてしまうと、相続人に所有権が戻ることになり、母が元気であるならばまだよいのですが、認知症になっていた場合には、今度は母の意思能力での「実家の凍結」という問題が生じてしまいます。父死亡のときに母はまだ存命であるケースは多く、そのときに母が健康で、意思能力があるかどうかはわかりません。

 

父の死亡前に母が認知症になってしまった場合には遺産分割ができなくなります。母には後見人がついて遺産分割協議をすることになるでしょう。そうすると母の自宅となる現在の実家は事実上凍結してしまうことになります。それでは父の時にせっかく凍結防止のために家族信託を設計した意味がなくなってしまいます。

 

また、父の死亡と同時に信託が終了して、所有権が相続人に移転する場合の税務上メリットにも配慮しなければなりません。父の遺産で大きな割合を占めるであろう実家において「小規模宅地等の特例」、「配偶者控除」や「居住用財産の特別控除」「空き家特別控除」の利用にも支障が出てくることが考えられます。

 

本事例では、基本的に信託の終了は「合意による」と定め、「父の死亡」とか「○○年間」などの期限の設定は避けるようにした方がよいでしょう。

 

[6]受託者 

 

受託者は長男とし、父が倒れたときにも、母が認知症を発症したときにも対応することができるようにします。しかし長男が万が一先に亡くなってしまうことがあるかもしれません。そこで、後継受託者として予備的に長男の妻を指名しておきます。

 

[7]受託者固有の財産と分別管理 

 

受託者は受託した財産と固有の財産とは分別管理をしなければなりません(信託法34①)。実家売却後の金銭も信託財産を形成しますので、受託者は分別して管理しなくてはなりません。信託契約に管理の方法を定めた場合にはそれに従いますが、特に定めていない場合には、「その計算を明らかにする方法」で管理すればよいとされています(信託法34①二ロ)。

 

実家売却の場合では、長男名義の口座とは明確に区別できるように「委託者兼受益者父受託者長男信託口」、「受託者長男信託口」等の名称で信託口座を金融機関で開設してもらいます。信託口口座に対応できないとする金融機関もありますが、信託口口座を開いてくれる金融機関も増えてきていますので、対応してもらえる金融機関を探します。

 

[図表]家族信託で実家を売却できるようにする仕組み

 

不動産のように登記ができるものは登記が必須になります(信託法14)。ところで、不動産の登記は第三者対抗要件ですので、信託契約書の条項すべてを登記する必要はありません。第三者に対して主張したい事項を入れるようにします。

 

登記原因証明情報は信託契約書でもよいのですが、信託目録に記録すべき内容は第三者対抗要件が必要な事項や公示してもよい事項を入れますので、登記申請する際には、信託契約書とは別に、登記原因証明情報を作成した方がよいでしょう。

 

 

成田 一正
税理士法人おおたか 代表社員
公認会計士・税理士・行政書士

 

石脇 俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
株式会社継志舎 代表取締役

 

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