得られるものは何もない…粉飾決算の「高い代償」
粉飾決算を行なった結果、梅の花が支払うことになった代償は次のようなものです。
①過年度の決算訂正
②東京証券取引所による公表措置及び改善報告書の徴求
③取締役に対する社内処分
まず、2010年9月期から2018年9月期に至る9期分の通期の決算を訂正することを余儀なくされました。
また、有価証券報告書等で虚偽の情報を開示していたことから、東京証券取引所から「公表措置及び改善報告書の徴求」というニュースリリースが2019年9月に出されています。これを受けて、梅の花は2019年10月10日に東京証券取引所に対して改善報告書を提出しました。
さらに、梅の花は2019年10月4日に再発防止策を公表しており、そのなかでA氏の役員報酬の30%減額(6ヵ月間)、D氏の辞任、E氏の役員報酬の10%減額(3ヵ月間)という処分を行なうことが発表されました。
それに加え、創業者である代表取締役会長の役員報酬の50%以上の自主返上、創業メンバーの取締役1名の辞任、全取締役の月額報酬10%相当額の自主返上も発表されています。
粉飾決算が行われた6つの要因
このような粉飾決算が行なわれた要因として、調査報告書では次の6点が挙げられています。
①取締役会の監督機能の低下によるガバナンス不全
②各店舗の業績低迷
③事業の急拡大に伴う部門間・会社間牽制機能の喪失
④運営実態における業務分担および業務手順が不明瞭であること
⑤業務チェック体制の欠如
⑥自浄作用の不全、コンプライアンス意識の欠如
①は、A氏の影響力に起因する問題として調査報告書では認識されています。創業者を引き継いだA氏が発揮した強いリーダーシップは社内改革を進める原動力となっていた反面、A氏以外の役職員はA氏の意向や問題意識に応えようとする傾向が強かったため、取締役会における監督機能が低下し、ガバナンス不全に陥ったと指摘されています。
その結果、B氏やC氏が継続的に行なっていた減損処理に関する粉飾決算についても、一時の業績不振から脱した後はA氏が減損処理に対して関心を寄せることがなかったことから、それに対する取締役会の監視が機能しなかったということです。
②は、すでに述べたとおりです。2009年9月期において、リーマン・ショックによる景気後退の影響もあって既存店の売上が停滞し、M&A後の子会社の業績改善も想定どおり進まず、業績が低迷していました。そのような状況下において、A氏から2期連続の大幅な赤字を回避したいという意向を示されたB氏は、粉飾決算という選択肢を選ばざるを得なかったのではないかと推察されます。
③としては、M&Aや子会社の増加に伴って業務量が増大するなか、本社の人材育成が追いついていなかったことと、取締役が複数の役職を兼務するなかで、本社業務に対する監督が十分に行なわれず、また部門間や会社間の牽制機能が失われていたことが指摘されています。
④としては、経営計画室と経理課の業務分担の問題が挙げられています。今回の粉飾決算の対象となった店舗の減損処理は本来、経理課が担当するべき業務でしたが、経営計画室が作成した利益計画を確認できる責任者が経理課に存在しませんでした。そのため、経理課は店舗減損処理を経営計画室の業務とみなす一方、後任の経営計画室長であるE氏は当該業務が自部門で行なわれている状況を認識していませんでした。このように責任の所在が曖昧になっていたことも、粉飾決算に対するチェックが甘くなった原因と言えます。
責任の所在が曖昧になっていることに起因して、不正を組織的に防止するためのチェック機能が働かず(⑤)、減損処理を含めた業務処理に対するコンプライアンス意識の低下、さらには組織のセクショナリズムによる自浄作用の不全(⑥)も相まって、こうした粉飾決算が長期間放置されるに至ったと調査報告書は指摘しています。
矢部 謙介
中京大学国際学部 教授
中京大学大学院経営学研究科 教授
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