粉飾や黒字倒産を見抜く…キャッシュ・フローに現れる「特徴」

業績を取り繕うことで、金融機関や取引先、投資家を欺く「粉飾決算」。しかし一度粉飾決算を行えば、財務諸表の数字には必ず「異変」が生じます。ここでは、利益とキャッシュ・フローの関係性を押さえたうえで、粉飾決算・黒字倒産した企業の「キャッシュ・フロー計算書のパターン」を読み解く方法を解説。※本連載は、矢部謙介氏の著書『粉飾&黒字倒産を読む』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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P/L上の損益とキャッシュ・フローが「ズレる」理由

以前の記事『倒産は「当然の帰結」だった…決算書に現れ続けた、倒産の前兆』(関連記事参照)で説明したように、P/L上の損益とキャッシュ・フローは一致しません。損益を計算する際に使われる売上高(収益)と費用は、現金の動きとは一致していないからです。

 

粉飾決算や黒字倒産を見抜くためにキャッシュ・フロー計算書を読み解くにあたっては、なぜP/L上の損益とキャッシュ・フローの間にズレが生じるのかを理解しておく必要があります。ここでは、その点について説明しておきます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

図表1は、連結キャッシュ・フロー計算書の構造を、営業CF、投資CF、財務CFに絞って抜粋したものです。

 

[図表1]連結キャッシュ・フロー計算書の基本構造(抜粋)

 

ほとんどの会社の営業CFは間接法によって作成されています。間接法とは、P/L上の税金等調整前当期純利益から出発し、損益とキャッシュ・フローの間のズレを調整することで営業CFを表示する方法です。

 

したがって、間接法における調整項目を見ていけば、損益と営業CFの間のズレを生じさせる項目を特定することができます。

 

損益とキャッシュ・フローの差を生じさせる項目は、大きく分けると次の2つです。

 

①P/L上では費用なのに、キャッシュ・フローには影響を与えない項目

②キャッシュ・フローには影響するのに、P/L上では費用とならない項目

 

では、それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。

損益とキャッシュ・フローのズレを生む、2つの項目

①費用なのにキャッシュ・フローには影響を与えない項目

 

1つ目は、P/L上は費用なのに、キャッシュ・フローには影響を与えない項目です。その代表格としては、有形固定資産などの減価償却費が挙げられます。減価償却費は、有形固定資産の使用に伴う価値の減少分を費用として計上するものです。この減価償却費はP/L上では費用として計上されますが、あくまで利益を計算するための費用であって、誰かに対して代金を支払うわけではないので、営業CFには影響を与えません(ただし、有形固定資産の取得による支出を行なった時点で、投資CFは減少します)。

 

そのため、図表1の営業CF中の(A)に示すように、営業CFを計算する際に、税金等調整前当期純利益を計算するにあたって差し引かれた減価償却費を、改めて足し戻す処理を行なっています。こうすることで、減価償却費がキャッシュ・フローには影響しないようにしているわけです。

 

②キャッシュ・フローには影響するのに費用とならない項目

 

2つ目は、キャッシュ・フローには影響を及ぼすものの、費用ではない項目です。営業CFにおいて、キャッシュ・フローには影響するのに費用ではない項目の代表的なものの1つとしては、「棚卸資産の増減」が挙げられます。

 

棚卸資産は、原材料の仕入代金や工場で働く従業員の給与、製造経費などの支払い(現金支出)が姿かたちを変えたものですから、棚卸資産の増加は現金の減少を意味します。しかし、こうした在庫が費用(売上原価)となるのは、その在庫が販売された時点であって、販売前には費用計上されません。したがって、図表1中の(C)に示すように、棚卸資産の増加は営業CFの減少として調整されているわけです。

 

以前の記事で扱ったモリモトの事例において、P/L上の損益は黒字であるにもかかわらず、販売用不動産や仕掛不動産といった棚卸資産の膨張が資金繰りを圧迫していたのは、このようなメカニズムによるものです。

 

同様に、図表1中の(B)に示すように、「売上債権の増加」もキャッシュ・フローの減少につながります。売上債権は、受取手形や売掛金のように、商品や製品は販売されているものの、まだその代金を回収できていない分を示しています。したがって、図表2に示すように、売上債権は現金→棚卸資産→売上債権という経路で現金が姿かたちを変えたものですから、売上債権の増加は現金の減少を意味します。

 

[図表2]現金→棚卸資産→売上債権

 

粉飾決算のなかには、架空の取引により売上や利益を計上するケースがありますが、そのような架空の取引では販売代金を回収できないので、売上債権が膨張します。その結果、P/L上は売上や利益を取り繕うことができていたとしても、営業CFは赤字となり、苦境が明らかになってしまうわけです。

 

また、売上債権が突出して大きくなると、B/Sがいびつになってしまうため、棚卸資産も併せて水増しするということもよく行なわれます。したがって、粉飾決算を行なう会社の多くでは売上債権と棚卸資産の双方が過大に計上されることになります。

 

一方で、仕入債務(支払手形や買掛金)は、売上債権とは逆に作用します。仕入債務とは、すでに商品や原材料を仕入れているにもかかわらず、その代金をまだ支払っていない分のことです。

 

したがって、図表3に示すように、仕入債務が減少する場合は、その減少分の支払いに現金を使うことになるため、仕入債務の減少は現金の減少を意味するのです。

 

[図表3]仕入債務とキャッシュ・フローの関係

 

一方で、仕入債務が増加している場合は、すでに原材料や商品を仕入れているにもかかわらず、まだ現金での支払いを行なっていない分が増えているため、キャッシュ・フロー上はプラスに作用します。

 

そのため、記事冒頭の図表1中の(D)に示すように、仕入債務の減少はキャッシュの減少要因(仕入債務の増加はキャッシュの増加要因)として調整が行なわれているのです。

 

なお、投資CFおよび財務CFも基本的に直接損益には影響を及ぼしませんが、キャッシュ・フローに影響を与える項目として考えることができます。設備投資や借入金の返済などは、キャッシュ・フローには直接影響しますが、P/L上の損益には直接影響を及ぼさないからです。

 

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中京大学国際学部 教授
中京大学大学院経営学研究科 教授 

専門は経営分析・経営財務。1972年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒、同大学大学院経営管理研究科でMBAを、一橋大学大学院商学研究科で博士(商学)を取得。

三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)および外資系経営コンサルティングファームのローランド・ベルガーにおいて、大手企業や中小企業を対象に、経営戦略構築、リストラクチャリング、事業部業績評価システムの導入や新規事業の立ち上げ支援といった経営コンサルティング活動に従事する。その後、現職の傍らマックスバリュ東海株式会社社外取締役や中央大学大学院戦略経営研究科兼任講師なども務める。

著書に『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』(以上、日本実業出版社)、『日本における企業再編の価値向上効果』『成功しているファミリービジネスは何をどう変えているのか?(共著)』(以上、同文舘出版)などがある。

著者紹介

連載粉飾決算&黒字倒産のシグナルを読む…「あぶない決算書」を見抜く方法

粉飾&黒字倒産を読む 「あぶない決算書」を見抜く技術

粉飾&黒字倒産を読む 「あぶない決算書」を見抜く技術

矢部 謙介

日本実業出版社

「この数字、何かがおかしい―」 決算書の数字には、粉飾決算や黒字倒産のシグナルが現れます。 「きれいな数字」にだまされず、ビジネスや投資の「リスク」を読み解き、手を打つことが重要です。 会計の基礎教養から会…

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