ルーズヴェルト政権は、民主社会主義に根差していた?
特に、マーガレット・サッチャー政権時のイギリスや、ロナルド・レーガン政権時のアメリカは、規制緩和、自由化、民営化、グローバル化を推し進め、金融を引き締め、「小さな政府」を目指しました(実際に実現したかは別ですが)。
こうした政策のもととなっているイデオロギーは「新自由主義」です。サッチャーやレーガンが新自由主義に基づく政策を実施したのは、当時のイギリスやアメリカが、インフレに悩んでいたからなのです。
反対に、②のデフレ対策が実施された例として、最も有名なのは、1930年代のアメリカのフランクリン・ルーズヴェルト政権が実施したニュー・ディール政策です。
ニュー・ディール政策は、公共投資など政府支出を拡大させ、金融緩和を行っただけでなく、産業統制や価格規制の強化や、労働者の保護をも行いました。まさに、需要拡大策と供給抑制策を実施したわけです。その理由は言うまでもなく、当時のアメリカが、世界恐慌という大デフレ不況に襲われていたからにほかなりません。
なお、政府支出の拡大や労働者保護のような政策のもととなっているイデオロギーは、社会主義と呼ばれます。もっとも、「社会主義」というと、民主的ではない旧ソ連のような国家が連想されるので、「民主社会主義」という言葉を使っておきましょう。
誤解を避けるために言っておきますが、ここで言う「民主社会主義」とは、私有財産制の廃止とか計画経済とか全産業の国営といった、資本主義を全否定する体制のことを指しているのではありません。
「民主社会主義」とは、「大きな政府」「福祉国家」「労働者の保護」「重要産業の国営化」などを行い、資本主義の一部を修正することであるとお考えください。ですから、ルーズヴェルト政権のニュー・ディール政策や戦後の福祉国家の理念は、ある種の「民主社会主義」と言ってもいいでしょう。そして、この「民主社会主義」は、デフレ対策のイデオロギーだということです。
以上のインフレ対策とデフレ対策を整理すると、[表1]のようになります。この表1で、インフレ対策とデフレ対策が、正反対であることが、いっそう明らかになると思います。
インフレとデフレは正反対の現象ですから、その対策も正反対になるのは、当たり前のことでしょう。
このインフレ対策とデフレ対策は、次のようにも言い換えられます。インフレ対策とは、政府が「需要抑制/供給拡大」政策によって、人為的にデフレを引き起こすことです。反対に、デフレ対策とは、政府が「需要拡大/供給抑制」政策によって、人為的にインフレを引き起こすことです。
中野剛志
評論家