バンクシーを写したのは「過去に訣別した右腕」だった
⬛︎バンクシーの姿を初めて捉えた
――書籍『BANKSY CAPUTURED』は、バンクシーの姿が初めて捉えられたことも話題となり、英国では発売と同時に売切れ。その後、セカンド・バージョンも発刊され、ネットでは高値で取引きされています。今回アジアでもその世界限定部数で書籍が発売されました。先生は、どんな風に作品集を見ましたか?
(毛利)スティーヴ・ラザリデスが写真を撮影し、監修してまとめられた本であることに目を引かれました。彼は、2000年代にバンクシーと活動を共にした人物で、マネージャーでもあり、またフォトグラファーでもあった人物。初期のバンクシーのプロデューサー的存在で、スポークスマンでもありました。2003年には一緒に、バンクシーを初めとするストリート・アーティストのシルク・スクリーン※を中心に制作・販売する会社POW(Pictures On Walls)を設立しています。
※シルク・スクリーン…印刷方法の一種。
「グラフィティ」(主にスプレーやペンキを用いた表現方法)は、お金にならない、儲からないと皆が思っていた時代です。シルク・スクリーンのプリントを作って売ること自体がチャレンジでした。当時確か、300〜500ポンド(日本円で4〜6万円)くらいだったと記憶しています。
コンセプトは、グラフィティが好きなティーンエイジャーや、大学生ら若い人が買えるアート。現代美術のプライスから考えると、かなり安い値段設定です。ラザリデスは、それまでとは違うマーケットを探していたんじゃないでしょうか。
ラザリデスは、グラフィティのマーケットがなかった時代にプリントを売ったり、ギャラリーのみならず倉庫やレストラン、バーといったオルタナティヴ・スペース※で独自の展覧会を開いたり……。さらにはハリウッドにストリート・アートを売り込み、グラフィティの世界をアート・マーケットの世界に組み入れ先駆的な存在ですね。
※オルタナティヴ・スペース…美術館、劇場など正式な場所以外の表現空間を指す。
2人は、2008年に訣別したと言われていますが、ラザリデスはバンクシーが一番親しく、いわば右腕だった人物なのです。