遺言書を「残念」にしない3つのポイント
遺言書を書くうえで、次の3つは最低限の必要事項になります。
①本文は自分で書く
②作成日付の記載
③署名・押印が必要
稔さんはワープロで遺言書を作成しましたが、自筆証書遺言を書くならば、ワープロを使わず、手書きでなければなりません(遺言書の種類は【以前の記事】参照)。
また、日付や署名、ハンコの押印も忘れずに。ハンコは実印が望ましいですが、三文判でも大丈夫です。せっかく書いた遺言書が無駄にならないようにするには、封をする前に専門家(弁護士、司法書士など)の確認を受けるとよいです。
ほかにも、この遺言書には問題点がありました。「すべてを妻に一任する」という表現です。稔さんは妻の早苗さんが財産をすべて受け取るという意味で書いたのですが、解釈によっては、名義変更などの手続きを早苗さんに委任し、遺産の分割は法定相続分で執り行うという意味にもとれます。したがって、ここは一任ではなく、相続させると書くのが正解です。
<どこが変わったのか?「満点」なポイントを解説>
満点ポイント① ◎【遺言書】
次の「遺言書が無効にならないために最低限必要なこと」を満たしました。
1. 本文は自筆
2. 作成日付の記載
3. 署名・押印が必要
満点ポイント② ◎【別紙】
別紙には全部事項証明書等のコピーや預金通帳のコピー、株式に関する情報を添付します。署名・押印が必要です。
満点ポイント③ ◎【相続させる】
「一任する」から「相続させる」に直しました。ただし、稔さんの父真一さんと母佳乃さんが存命なので、遺留分侵害額請求を早苗さんにされたら支払わなくてはなりません(遺留分侵害請求については【以前の記事】参照)。
自宅の「生前贈与」で配偶者の住居を保障
早苗さんが住むところに困らないようにする手として生前贈与があります。ただ、法律では、遺産分割のときに、早苗さんが受けた財産も相続財産とみなす、「特別受益の持ち戻し」という制度があります(前回の記事『二女には「一生分のお金」を…生前贈与した母の、完璧な遺言書』参照)。
ところが、民法の改正で、配偶者への自宅の生前贈与が特別受益の対象外になりました。具体的には、結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して自宅の遺贈または贈与がされた場合には、持ち戻さなくてもいいことになりました(持ち戻し免除の意思表示推定規定・2019年7月1日施行)。
たとえば、生前、稔さんが妻の早苗さんにマンションを生前贈与したとします。稔さんの相続財産は預金等(2000万円)、株式(1億3000万円)、合計1億5000万円です。従来ならば、ここにマンション3000万円を持ち戻して、相続財産の合計は1億8000万円。
妻の法定相続分は全財産の3分の2⇒1億2000万円です(決め方は【以前の記事】参照)。すでに3000万円のマンションをもらっているので9000万円になります。
ところが、改正で持ち戻しをしなくてもいいので、持ち戻し前の財産1億5000万円の3分の2⇒1億円、マンションのほかに1000万円も多くもらえることになったのです。
マンションを生前贈与して早苗さんのものにしておけば、相続のときに、ほかの相続人に追い出されることもありません。さらに、相続財産を多くもらえるのでお得です。
<法定相続人をチェック!>
①法定相続人を知るには、まずは図表5の相続の相続順位1をチェックします。早苗夫婦は子どもがいないので、ここは該当せず。そのときは相続順位2へ。
②相続順位2は親。父の真一さんと母の佳乃さんが存命なので該当します。
被相続人:小林稔
法定相続人:小林早苗(配偶者)小林真一(父)小林佳乃(母)
・早苗さんが一人で全財産を受け取るのは、「子ども、父母、兄弟姉妹、いずれも0人」のときになります。
楠部 亮太
楠部法律事務所 代表弁護士
中川 紗希
abri(アブリ)新宿総合法律事務所 代表、弁護士
平田 久美子
平田久美子税理士事務所 代表、税理士
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】